
2025年4月で開館10周年を迎えた大分県立美術館。
今回の展覧会はその10周年に相応しい豪華な内容となっています。
大分県立美術館のコンセプトでもある「出会いと五感のミュージアム」にちなみ、人と人との出会い、人と作品との出会いーーーLINKがテーマの展覧会。
大分県出身のアーティストはもちろん、セザンヌ、モネ、ピカソなどアートに詳しくない人でも「なんか聞いたことあるな」という大物の作品が目白押しでした。気合入っとる。
また展示会場も館内1階、3階と2箇所に分けられており、展示される作品数も約180点という潤沢な仕様。
前期と後期で作品の入れ替えもあるので、ぜひご予定にゆとりを持った上での来館をおすすめします。
また写真撮影が可能なのはOKマークが付いた作品のみになります。

はじまりは藤雅三
日本近代洋画の父といえば黒田清輝が有名です。
黒田清輝はもともと法律を学ぶためにパリへ留学していました。後に大分県臼杵市出身で同じくパリに洋画を学ぶため留学した藤が、黒田に通訳を頼んだことをきっかけに黒田は美術の道へ進むことになります。
藤が描いた作品で日本国内にあるのは1点のみ。
会場内にはその貴重な1点が一番最初に展示されていました。大分とアート、世界を結んだLINKの象徴ともいえるでしょう。

左の縦長の作品が、藤が黒田とともに師事していたラファエル・コラン(若い娘/1894年)の作品です。美しい。
腰細!当時の女性のファッション、理想とされる体型も見て取れ興味深いです。
右上がモネ(アンティーブ岬/1888年)、右下がセザンヌ(水の反映/1888-90年頃)の作品です。
同世代に活躍したビックネームの作品も観られるのは嬉しいです。
あとセザンヌは相変わらず何描いてるのかわからないですね。

佐藤敬(水災に就いて/1939年)。
大分市出身の佐藤は当時パリで観たピカソの作品に衝撃を受け、何度も展示されている美術館に足繁く通ったそうです。後にピカソ本人と会った時の写真も展示されていました。THE・ピカソニズムって感じの作品ですね。
会場にはピカソの絵画作品(黄色い背景の女/1937年)や、絵付けした陶芸作品もありました。面白い作品が多かったです。

岡本太郎(燃える人/1955年)。
岡本太郎は1970年に開催された大阪万博で太陽の塔を手掛けたことでも有名ですが、こちらの作品もパンチが効いていますね。色彩も鮮やか、しかもかなり巨大サイズなので否応なしに目に飛び込んでくるパワーがあります。
大分で濃く抽出されるエッセンス
大分から世界へ飛び出しLINKしていったアーティストもいれば、大分の地で醸成されたLINKもありました。
古くから全国有数の温泉地であった別府は通商地としても栄え、竹久夢二や田山花袋などの文化人や、岡本太郎の父で漫画家の岡本一平も滞在していたそうです。
その影響もあり美術展などが大分市でも開催されるようになっていき、画材の需要が増えました。その需要に応えるため神戸からやってきたのが木村純一郎という人でした。
画材だけでなく、音楽、珈琲なども供していたその「キムラヤ」は文化的なサロンになっていきます。
戦後は二代目の木村成敏が磯崎新や吉村益信とともに「新世紀群」というサークルを立ち上げ、まだ中学生だった赤瀬川原平なども参加し、後に「ネオ・ダダイズム・オルガナイザーズ」というグループが結成されたそうです。
大分は多様性に柔軟な気質が戦前からあり、特に観光地である別府では顕著だった。
その道筋は世界中から留学生を受け入れているAPU(アジア立命館太平洋大学)にもLINKしている気がしますね。

「新世紀群」「ネオ・ダダイズム・オルガナイザーズ」に参加していた吉村益信の作品。
上の画像が(Neon Cloud-Neon ネオン雲/1966年)、下の画像が(反物質;ライト・オン・メビウス/1968年)です。
会場入り口からお行儀の良い絵画作品を辿ってきたところに、急にケバケバしい高度成長期感全開の作品が登場するのでかなりインパクトがあります。とっても刺激的。
他にも最高裁まで争って敗訴した赤瀬川原平の偽札作品や、建築界のノーベル賞と言われるプリツカー賞を受賞した磯崎新の建築設計図も展示されている、非常にカオスな空間演出になっていました。
ダダイズム的作品だけをテーマにした濃い展示会も今後観てみたいですね。
そして日本画の最高峰へ
3Fの展示室では、日本画に焦点を当てています。
大分出身の日本画家といえば、福田平八郎、髙山辰雄などが挙げられます。
前期(〜5/21)までの目玉作品は、日展三山と称された三人の日本画家の作品です。

向かって左に位置するのが髙山辰雄(穹/1964年)、右が東山魁夷(冬華/1964年)です。
会場には冬華の右にもうひとつ、杉山寧(穹/1964年※写真撮影NG)の作品が展示されており、粋な演出がされていました。
1964年当時の日展で、髙山と杉山が月夜をモチーフとした「穹」というタイトルまでどんがぶりの作品を出展し、その二つの作品の間に真冬の太陽をモチーフとした東山の作品が展示されたという当時の逸話が再現されています。また日展三山、というのはこの三名の名字に共通する「山」からきています。

せっかくなのでドアップの画像も載せておきます。
髙山辰雄は青色に特徴があると言われています。

白だけでなく、近づいて見ると青色やピンク色などさまざまな色が置かれているのが分かります。
静けさと真冬の音が伝わってくるような静謐さをたたえた作品ですね。美しい。
この作品を観るために5回位通っているというおじいちゃんに話しかけられたのですが、おじいちゃんの一番の推しは大分出身の岩澤重夫だそうです。

岩澤重夫(天水悠々/2003年)
繊細さと大自然のダイナミックさが印象深い美しい作品ですね。
そしてこの記事を書いている時に故・岩澤重夫さんのご長男である岩澤有徑さんの作品を観覧した経験があったことを思い出しました。
関連記事:【大分市】回遊劇場 AFTER 大分アートフェスティバル2022【感想・作品紹介】
岩澤有徑さんは日本画とは全く違うジャンル、メディアアーティストとして海外でアート展を開催するなどのご活躍もされています。自分の記憶の中でですが、思わぬLINKが繋がったことに驚いています。
それほど大分という地から様々なアートの糸が紡がれ続けているということなのでしょう。すげぇや。
LINKS―大分と、世界と。 概要

「OPAM開館10周年記念 LINKS―大分と、世界と。」展は2025年6月22日(日)まで大分県立美術館にて開催中です。
後期(5/23)からはいよいよ世界に3点しか現存していないピカソのゲルニカ(タピスリ)も登場します。中学生以下は観覧料も無料なので、お出かけスポットとしてもおすすめします。
お時間のある方はぜひ訪れてみてください。
開催期間 | 2025年4月26日(土)〜2025年6月22日(日) |
開館時間 | 午前10時〜19時(金・土曜日は20:00まで) 入館は閉館の30分前まで |
休展日 | 5月22日(木) |
観覧料 | 一般 1,400円 高大生 1,200円 中学生以下及び身体障がい者手帳、療育手帳、精神障がい者保健福祉手帳を提示の方と付添者1名は無料 |
HP | 大分県立美術館https://www.opam.jp/ |
駐車場 | 有(詳しくは大分県立美術館のホームページまで) |