まるで生きているかのような金魚のみずみずしさ。
そのヒレの透明感、軽やかな煌めき。
じっと見つめていると、今にも動き出しそうな立体感。
ため息が出るほど美しい作品たちを手掛けたのは、自らを「金魚絵師」と名乗る深堀隆介さん。
「枡」という日本的なアイテムと、同じく日本人に親しみのある金魚。
まさに日本的な美を体現したかのような展覧会にお邪魔してきました。
「金魚絵師」深堀隆介さんとは
深堀隆介さんの公式ホームページはこちらから。↓
http://goldfishing.info/
アーティストのしての活動に悩んでいた頃、自宅で粗末に飼っていた金魚の懸命な美しさに胸を打たれ、そしてその金魚の美しさに救われたという深堀さん。
金魚が水槽の中で泳ぐ様、ヒレの動きの一瞬まで描こうとして生み出されたのが「2.5D Painting」なのだそうです。
「2.5D Painting」とは、器の中に樹脂を流し込み、絵具で金魚を描いていく手法。
樹脂を薄く流し込み、乾いたらその樹脂の上に金魚を描いていく。
乾くまで2日はかかるという樹脂。
その作業を幾度となく繰り返し、レイヤーを何枚も重ねて描いた金魚は立体感を伴い、器の中に現れます。
根気だけでなく、2日後に同じ金魚の絵を描くという技術や、立体的に見える描き方、集中力。
深堀さんが生み出したというこの技法は、2Dという技法で3Dを表現する新しい手法であり、深堀さんにしか体現できない手法です。
上から観た時が一番美しいと感じる、とのことで視点を固定するために、そして作品のサイズ感的にも、日本的な美を感じてもらうためにも枡や朱塗りのお椀を題材に選ぶことが多いという深堀さん。
国内だけでなく、香港やニューヨークなど、海外でも個展が開かれており、今後の御活躍がますます期待されます。
「金魚鉢、地球鉢。」概要
深堀隆介さんというアーティストを代表する「2.5D Painting」で描かれた作品を心ゆくまで堪能することができます。
深堀さんが2.5D Paintingを始めた初期の作品から、現在の作品まで、その技術や活動の軌跡を辿ることができます。
2002年に生み出したという2.5D Painting。
初期の作品は、やはりまだ2D そのものという印象でしたが、約20年間という凄まじい修練を経た現在の作品は、立体感や躍動感が素晴らしかったです。
会場には、2.5D Paintingで生み出された作品だけでなく、金魚をダイナミックに描いた絵画作品や、古びた桐の箪笥から金魚が泳ぎ出てくる、という立体作品まで、様々な作品がありました。
会場に設置されたインスタレーションは、童心をくすぐる金魚すくい。
天井いっぱいにまで描かれている金魚たち。
水の波紋が再現されたライト。
縁日で流れているようなラジオ。
金魚を愛でていたつもりが、自分が金魚から見られている、もしくは自分も金魚になったように水面を泳ぎ渡っているような感覚になれる、楽しいインスタレーションでした。
技術の革新はアートを破壊するのか
こちらは深堀さんが手掛けた2.5D Painting最新作のひとつ。
スマートフォンで撮影した画像なのでちょっと粗いですが、もちろん実物はもっと美しいです。
技術と修練の結晶、2.5D Paintingですが、ネガティブな面もあります。
それは「ある一定方向からでしか立体的に見えない」ということ。
もちろんそれは深堀さんご自身も作品解説でおっしゃっており、そのため視点を固定するためもあり、枡などを題材に選ぶことが多いそうです。
ただ、「立体的な美」を「平面的な美で表現する」という2.5D Paintingですが、視点が固定されてしまうこともあり、どうしても構図が同じような感じになってしまいます。
もちろん枡だけでなく、日本傘や、桶、水槽など、別の素材で制作された作品もたくさんあります。
しかし、「立体的に見える」ということを追求する上では、もはや3Dプリンタ作品には敵わないのではないかと感じました。
下記の画像は2018年に作られた3Dプリンタの作品です。
2.5D Paintingという技法が生み出されたのは2002年代。
3Dプリンタの精度はその当時はあまり話題にならなかったと思います。
しかし4年前でさえ上記の画像のような精度。
実際3Dプリンタで作品を制作、活動するアーティストも増えており、技術やクオリティーの革新は凄まじいと感じます。
確かに深堀さんの画力や技術力は素晴らしいことは疑いようのない事実。
奇しくも、3Dプリンタも薄い層を次々と積み重ねていく積層造形法なのだそうです。
深堀さんも、最近は2Dにしか見えないアニメのような金魚を樹脂に描く、という作品を手掛けており、実際に会場でその作品も観ましたが、、、正直あまり印象的ではありませんでした。
360度どこから観ても立体的で、しかもリアルな3Dプリンタ作品と、「一定方向からでしか立体的に見えない」2.5D Painting作品。
ただ、「一定方向からでしか立体的に見えない」というのが2.5D Painting作品のポジティブな面でもあると考えます。
個人的には、絵画から金魚が飛び出してくるような、金魚の半身は絵画作品、もう片方は2.5D Paintingのような深堀さんならではの作品が観たいなと感じました。
「金魚鉢、地球鉢。」展 まとめ
(上記の画像は展覧会ホームページからお借りしています)
深堀隆介展「金魚鉢、地球鉢。」は現在上野の森美術館で2022/1/31(月)まで開催中です。
ため息の出るような美しさや、しびれるほどの画力、技術力を間近で堪能できる素晴らしい展覧会です。
機会があればぜひ。
開催日時 | 2021/12/2(木)〜2022/1/31(月) |
開館時間 | 10:00〜17:00(入館は16:30まで) |
観覧料 | 一般 1600円 高大生 1300円 小中生 800円 |
開催場所 | 上野の森美術館 |
公式ホームページ | https://www.kingyobachi-tokyo.jp/index.html |