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社員食堂の未来について考えてみる

投稿日:2021年1月13日 更新日:

社員食堂といえば、皆さんはどのようなイメージを抱かれるでしょうか。


いわゆる学食の延長線のような、安くて早くてお腹を満たせるメニュー。

それとも見晴らしの良いおしゃれなカフェレストランのような社員食堂?


もちろん、社員食堂を運営する業者、または受託先となる企業によってそれぞれ社員食堂の雰囲気は全く違うものとなります。


しかしそこは飲食業界。


飲食業界につきものの悩みは、売上(赤字か黒字か)と人手不足です。


今回は、社員食堂で栄養士として働いていた経験をもとに、日頃考えていることをまとめてみようと思います。

なぜ社員食堂は赤字経営が多いのか

社員食堂は、赤字経営のところが多いと言われています。


私の勤務していた社員食堂も、常に赤字経営でした。


なぜ、赤字になってしまうのでしょう?


それはずばり、社員食堂を利用されるお客様の単価が低いからです。


また、毎日食堂の利用者数が変わるので自然とロスも多くなりがちなのです。


人件費、食材費などは高くなっても、それによって食堂のメニュー価格というのは一般的には上がり下がりはしません。


先月は唐揚げ定食が450円だったのに、今月は仕入れ単価や人件費が高くなったので480円、ということはできませんからね。


もちろん、事前予約制などで運営し、食品ロスをできるだけ削減している食堂もあるとは思いますが、一般的には利用人数を予測し、それによって発注を行っているパターンが多いと思います。


また、早い時間に売り切れになってもクレームが発生しますので、ある程度はロス覚悟で多めに準備します。


更に、レストランや通常の飲食店と違い、利用者数が日によって大幅に増えるということもないので、ロスが出た費用を別の日に回収することも困難です。


客単価を上げるためにも値上げをすればいいじゃないか、というご意見もごもっともですが、高いとそれだけで敬遠され利用者数が減ります。


赤字を避けるためには仕入れ単価や人件費などの経費を抑えることと、やはり従業員の利用率を上げて売上を確保することが重要になります。


多くの方に利用していただくため、委託業者側も必死にアピールをしていますが、なかなか利用率は上がりません。

食堂利用者は全従業員の40%〜50%程度

日によって食堂を利用される従業員の方の割合ですが、私が勤めていた企業様では、ほぼ50%前後で推移していました。


食堂利用者数が増えれば、当然利益率も上がります。


毎月食堂会議が開かれた際には、その場でメニューのマンネリ化などのご指摘もいただきます。


ただ、新メニューにチャレンジしても売上が取れなかった場合が怖いので、どうしても人気メニューや絶対に売れるメニューを出さざるを得ません。


そして残念ながら、メニューや味の良し悪しに関わらず食堂の利用率は下がっていくのでは、と私は考えているのです。

利用される従業員の方の懐具合

社員食堂で一番人気のある(売れる)メニューは、からあげなどに代表される揚げ物メニューでしょうか?


それとも、健康的で野菜をたっぷりとれる定食?


答えは、安価で素早く食べることができ、お腹がいっぱいになるうどんやそばなどの麺類です。


もちろんすべての社員食堂でそうであると断言はしませんが、私だ勤務していた企業ではそうでした。


美味しいバランスの良い食事ではなく、安くてボリュームのある食事が売れます。


そして、安いということは自然と客単価は低くなります。


低い客単価で利益を上げるには、客数を増やさなければなりません。


しかし、利用される従業員の方の数はほぼ決まっています。


分かりやすいように、唐揚げ定食(450円)とうどん(200円)とした場合の例を上げてみようと思います。


客数はそれぞれ同じ100人、材料費はもちろん唐揚げ定食の方が高くなるので、以下のように設定しました。

唐揚げ定食うどん
客単価450円200円
客数100人100人
売上45000円20000円
原価率(材料費)60%30%
利益18000円14000円

(単純な計算にするために消費税などを省き、原価率もざっくりと計算しています)
安いうどんよりも、原価率が高い唐揚げ定食(かなり高めに設定しました)の方が経営的には貢献していることが分かります。


しかし、利用される方の立場からしてみれば、お財布事情が厳しいのであればお昼は節約しようかな、とかお弁当を持参しよう、となると思います。


また、企業側から昼食の補助金が出ている場合は、定食の値段を下げることが出来たり、材料費の一部を補填できたりして、より質の良い材料の食事を安価で提供することも可能になるでしょう。


ところが企業側としては「そもそも社員食堂を設置していることがすでに福利厚生」なので、わざわざ更に補助金を出すというところはあまりおみかけしません。


従業員の方からしても、昼食の補助金を出す余裕があるのなら基本給などの給与を上げてくれ、という意見のほうが多いと思います。


そもそも食堂をご利用されない方もいらっしゃいますからね。


そして、従業員の方の懐事情ですが、今後もあたたまることはないと考えています。


悲しいことに、先進国の中で唯一日本の所得だけが増えていないという事実。
https://bangking-yeah.com/2020/05/11/advanced-coutry1/
(クリックでジャンプします)


むしろ毎年のように上がる社会保障費に、税金。


さらにコロナショックで今後の見通しも不透明ななか、支出を抑えよう、となるのが人の自然な考えなのではないでしょうか。


以上のことから、私は食堂利用者数は減少していくと考えています。


利用者が減少すれば、更に赤字幅が大きくなります。


ロスが出たとしても補填の見込めない委託企業としては、どうしても原価率を下げるために安い外国産の冷凍食品を使用したり、必ず売上の見込めるようなメニューを組まざるを得ないのです。

撤退する業者 それでも必要とされる社員食堂


社員食堂は赤字経営のところが多いとお話してきました。


もちろん、そうでない委託業者もあると思います。


が、赤字が続く委託側としては企業様からの補填がない場合、撤退します。


二年契約の予定があまりにも赤字続きなので一年で撤退させてくれ、などという話もよく耳にします。


そもそも論として、今後新規に社員食堂を設置する企業は減っていくと考えられます。


新型コロナウイルスの影響によるテレワーク推奨のご時世。


テレワークに切り替えられる企業は、もし今後感染症が収まったとしても、オフィスを設営する費用、社員の交通費負担などをふまえた時、毎日社員を出社させるというスタイルに戻るとは考えられません。


しかし、ゼロにはなりません。


なぜなら製造業に代表される企業は基本的にはテレワークをしたくても出来ず、またそのような企業は多くの従業員を抱えています。


私が勤めていた社員食堂が入る企業では常に1000人以上の方が勤務されていました。


また、ある程度の規模の工場は広さや立地の面から見ても、都市部では設営できません。


そうすると都市部から離れた郊外(いわゆる田舎)に工場を立てるほかなく、そして郊外には気軽に利用できる飲食店はありません。


しかも、多少休憩時間をずらすとはいえ、1000人規模の従業員の方が一度にお昼休憩を取るわけです。


もし工場や会社の周囲に飲食店があったとしても、移動や食べている間に休憩時間は終わってしまうでしょう。


素早く食事を終え、少しでも長く体を休めたいのが従業員の方々の要望です。


また、健康的な食事によって従業員の健康維持・推進に寄与する、という福利厚生の点から見ても、工場や企業内に社員食堂を設置する、という会社は今後はゼロにならないでしょう。

新しい社員食堂のスタイルとは

毎日お昼に、温かいできたてのご飯が食べられる。


手作りにこだわった、バランスの良いメニュー。


そしてワンコイン以下の値段でお腹を満たすことが出来る。


そんな社員食堂は、今後ますます減っていくでしょう。


ボランティアではない以上、赤字運営ならば受託先の企業から撤退すべきだと私は思います。(なかなか大人の事情でそうもいかないようですが)


委託業者が撤退した後、社員の食事をどうするか。


残るは企業が直営方式で食堂を運営するか、弁当などに代表される中食を取り入れるかの二択になると考えています。


二択と書きましたがほぼ一択です。


直営方式で運営する費用、効果、リスク(人員配置や食中毒)を考えた時、やはり中食をデリバリーしてくれる複数の業者と契約する、というのが現実的に考えて最善の策だと思います。


以下に複数の社食デリバリー型サービスのページを紹介しておきます。


個人的にはこういうサービスは今後ますます増えていくと考えています。


これは単なる予想ですが、もしかしたら大手冷凍食品会社なども参入してくるかも知れません。


オフィスおかん


管理栄養士が監修したお惣菜が一品100円で食べられるというサービス。

専用の冷蔵庫を設置。


毎月20種類のお惣菜が送られてくるそうです。

従業員が食べたい時に食べたい分だけ自分で選んで取る、というスタイルです。

OFFICE DE  YASAI


こちらも専用の冷蔵庫を設置し、そこにお惣菜を入れておくタイプです。

お値段は1品100円から。

国産野菜や果物、スムージーなどのラインナップもあり、女性に人気が出そうなスタイルです。

TAVENAL


やはり専用の冷蔵庫を設置するタイプです。

こちらは医師、管理栄養士が監修したお弁当が届きます。

カロリー500kcal台、塩分2g前後、糖質60g 以下と、各所にこだわりを感じます。

お値段はひとつ500円。

働き盛りの男性にとっては物足りないサイズだと思いますが、とても健康的な社食です。


ある程度従業員数の多い企業様は、いくつかのサービスや業者を組み合わせてみるのも面白いのではないかと思います。


他にも、工場や企業がある地域の、地元のお弁当屋や飲食店と複数契約し、お弁当をデリバリーしてもらうなどの方法も考えられます。


従業員の方は毎日違ったお弁当を選ぶ楽しみも増えますし、飲食店側は街中でお店を構えているだけより利益に確実性が出ます。

懸念点はやはりお財布事情?

今まで昼食を200円のうどんですませていた人からすれば、最低500円はするお弁当を毎日食べていれば相当出費が増えることになります。
(300円×20日としても毎月6000円出費が増えることに)


上記で紹介したサービスですが、企業によってはお惣菜を50円で食べられるように補助金を出しているという導入事例もありました。


そんな補助金をつける余裕もない、さりとて従業員が毎日昼食を500円のお弁当ですませても問題ないくらいの給与も上げられない。


そういう企業側、雇用主ももちろんいるでしょう。


しかしそのような会社は、厳しいようですが遅かれ早かれ今後潰れます。


もしくは人手不足によりますます運営が厳しくなるでしょう。


そもそも、「バランスの良い、健康的で美味しい温かいできたての食事をワンコイン以下で食べられる」わけがないのです。


日本は諸外国と比べて物価、とりわけ外食費が低い国です。
https://toyokeizai.net/articles/-/267008?page=3


それっていいことじゃん!と思うかもしれませんがその安さを支えているのは労働者側の人件費の安さです。


さて、このまま先進国の中で唯一所得の上がらない国であり続けるのか、それとも正当な労働や物事に対価を払うような国になるのか。


以上が私が社員食堂の未来について日頃から考えていることです。


労働人口減少に歯止めがかからない、加えて大規模な移民政策がとられない日本。


今後、ようやく人件費は上昇していくでしょう。


そうなった時、安さだけが売りの社員食堂はどうなっていくのか。


今後も流れを見守ろうと思います。

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