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【大分県立美術館】「くらしにみる昭和の時代 大分展」/「戦傷病者の労苦を伝える 大分展」/「平和祈念展 in 大分」【感想】

投稿日:2024年6月23日 更新日:

東京にある昭和館、しょうけい館、平和展示記念資料館。


いずれも先の大戦における戦中・戦後の国民生活の悲惨さ、戦争犠牲者、戦傷病者の苦労を伝え、戦争のおぞましさ・平和の尊さを学ぶための施設です。


3館同時の開催は大分初とのこと。
大分での開催ということもあり、展示資料には当時の大分の様子がわかる写真や映像もありました。テーマ性もあいまって没入感が高めの展覧会。


ウクライナやガザで戦争や虐殺が起き、犠牲者が際限なく増えている最中でもあります。ちょっとヘビーな内容ですが、ぜひ多くの人に見届けてもらいたいと思います。


なお本展覧会で写真撮影が可能なのは「ラーゲリの記憶」会場のみです。

くらしにみる 昭和の時代 大分展

展示は大きく分けて2部構成になっています。「戦時下のくらし〜日中戦争・太平洋戦争の時代〜」「戦後復興のあゆみ〜占領期から高度経済成長期の時代〜」の2つ。


「戦時下のくらし〜」では、戦地へ赴く兵士の壮行会の写真(しかも大分市内のお店の前で撮影されたもの!)やおなじみの千人針などがあり、かなり状態の良い資料で見やすかったです。


戦況が思わしくなく、だんだんと疲弊していく状況をリアルに反映して、配給制(しかもどんどん指定が増える)になる食料、生活雑貨たち・・さつまいもを植えて食料にしよう!みたいなポスター・・・。
木工船の作業員募集、国民の貯金を差し出そう(戦費にするため)というマジでヤバいポスターまであってヤバさがすごかったです。そのポスターの構図がどれも格好良くてデザイン性に優れているのが腹立たしい。


アメリカ国立公文書館提供のカラー映像もあり、爆撃を受けて更地にされた当時の大分市内も見ることができました。凄まじい爆撃で、今の大分駅のあたりから港まで見通せるくらい更地にされたのだとか・・・。えぇ・・。


「戦後復興のあゆみ〜」でも、終戦直後に米兵の進駐を恐れて横浜から大分へと疎開してきた人の手紙や、米軍の引き下げ品を煮込んだ闇市の残飯シチュー、一部を黒塗りされた紙芝居など・・とにかく展示資料ひとつひとつのエピソードが濃かったです。


ここから高度経済成長期、東京オリンピック・パラリンピックに向けて復興していく様子が資料とともに展開されています。資料としての電化製品(テレビや炊飯器)も登場し、明るい未来の兆しがあって少し救いがありましたね。

車いすと技師が支えた希望の一歩 戦傷病者の労苦を伝える-大分展-

こちらも大きく分けて2部構成。「パラリンピックと戦傷病者」「戦傷病者を支えた義肢」がテーマになっています。


まず「パラリンピック〜」では、大分県出身でパラリンピックの日本での開催を主導した医師・中村裕博士と、戦傷病者として選手としてパラリンピックに出場してメダルを獲得した青野繁夫さんにスポットを当てています。


日本における障害者は社会とは切り離され、保護すべき対象として隔離されていました。


リハビリの一環として、また社会参加のひとつとして障害者スポーツの普及を手掛け、東京パラリンピックの開催に尽力した中村医師。(現代では国際的なイベントでもある大分国際車いすマラソンの開催も中村医師によるもの)
実際行われた1964年東京パラリンピックでは急遽出場が決まったため、選手たちは卓球などスポーツのルールを覚えるところから始めたそうです。Wow!


後半の「戦傷病者を支えた義肢」では、実際に使用された義肢(義足や義手)が展示されていました。

初めて見る義肢。
戦後まもない頃の義肢なので、無骨で素材も重たそうな印象。
それ故余計に生活する上での不便さ、苦しさ、もどかしさまでも伝わってくるようでした。

足を失った人は歩行などの日常動作はもちろん、体重が片足や切断面にかかります。

痛みに効く薬が後年になるまで開発されなかったこと、戦傷病者への保証も戦後は充分ではなかったこと、精神的に不安定になり酒に溺れたり家族に暴力を振るう者が多いこと、戦中は人手を補って働きに出ていた女性たちが帰還した男性たちに職を追われながらも家庭ではその戦傷病者の家族として必死に介護や労働力として支えなければならなかったこと。


あらゆる面から「戦争」の酷さを味わされるような展示でした。

シベリア抑留/絵画と資料に見る ラーゲリの記憶

こちらの展示は写真撮影OK。精巧なジオラマや写真や手紙などの資料、シベリア抑留者自らによる絵画作品などもあり分かりやすいと思います。

日本人捕虜50万人の受入、収容、労働利用について記された1945年8月23日付けの極秘文書「国家防衛委員会決議 第9898cc号」(複製)。緑色はスターリンのサインだそう。


シベリア抑留された日本人は57万5千人に上り、そのうち約5万8千人が亡くなったそうです。


粗末で不衛生な収容所、暖房設備や燃料も不足しており、冬期は−30〜40度という極寒の環境。
食料はソ連国内でも不足していたため、抑留者たちは一日350gの黒パンと薄い雑穀などのスープで耐えなければなりませんでした。

−30度より気温が高いときは問答無用で労働に従事させられたそうで、、もう資料を見るだけでしんどい場面が続きます。

飢えに耐えかねてソ連の労働者と外套の袖を交換した防寒具の持ち主。しかし袖との交換が成り立つくらいソ連の労働者もキツイ生活を送っていたってことでもあります。お出しされるエピソードの攻撃力が強い。

大分県別府市出身で現在のウクライナにある収容所で約3年間過ごした方が故郷に送っていた手紙。

検閲されても問題ないようにするためか、それとも家族に心配はかけまいとする気概か・・・。
「當地(当地)はとても暖かで助かります 食物も充分で只今??有ます」との文章がなんとも言えない心持ちになります。

戦争ってやっぱクソ

上記はラーゲリ収容所のジオラマ。木造でめっちゃ吹き抜けてて絶対寒い。


3館の合同企画展、資料の状態も良く、映像や写真、手紙などもあり大変没入感の高い展覧会だったと思います。
また私が住んでいる大分にゆかりのある資料も豊富で、気がつけば2時間近く会場でじっくりと読み込んでいました。


ただ、これは日本全体に(教育にも)言えることですが、戦争の悲惨さや酷さを伝える展覧会や施設はほぼ「被害者」としての立場での展示です。戦争で味わった苦労、貧困、飢え、悲劇、怪我、病気、死・・・。


しかし、戦争をするということは「加害者」でもあるはずです。しかも先の大戦は真珠湾攻撃から日本がアメリカに宣戦布告した戦争です。
戦争資料館というのは平和への強い想いもあり「被害者」としてどんなに辛い目にあったかを伝える立場を取りがちです。
「加害者」として日本がアジアの国々、人々に対して行った植民地支配がどのようなもので、どんな統治を行ったかのかは描かれません。都合が悪いのでしょう。けれど描かれなかったものがどうなるか、伝えられなかったものがどうなるか。

私は何よりそれが恐ろしい。
未だに日本人は民度が高く、節度に満ちた国民性だと騙る国会議員もいます。


極限状態に陥ったとき、順当に弱い存在から尊厳も命も奪われていきます。その恐ろしさを身近に感じることができた素晴らしい展覧会でした。

「くらしにみる昭和の時代 大分展」/「戦傷病者の労苦を伝える 大分展」/「平和祈念展 in 大分」 概要

「くらしにみる昭和の時代 大分展」/「戦傷病者の労苦を伝える 大分展」/「平和祈念展 in 大分」は大分県立美術館にて2024年6月30日(日)まで開催中です。


資料も豊富で非常に分かりやすく戦争の悲惨さを伝えてくれる展覧会です。ぜひ多くの方に見ていただきたいと思います。

開催期間2024年6月19日(水)〜6月30日(日)
開館時間午前10時〜18時
休展日なし
観覧料無料
HP大分県立美術館https://www.opam.jp/
Instagramhttps://www.instagram.com/opamjp/
駐車場有(詳しくは大分県立美術館のホームページまで)

関連記事:【大分県立美術館】ペーパー・サンクチュアリ-ウクライナ難民の現実と詩-【感想】

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