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対価が存在しないサービスの行方

投稿日:2020年9月21日 更新日:

先日、気になったニュースがありました。


コンビニ店員を傷害容疑で逮捕 高齢男性重体 釣り銭の渡し方注意され、投げ飛ばし床に打ち付け顔殴る/Yahoo!ニュースより引用(現在記事は削除されています)


釣り銭の渡し方が悪いと注意を受けたことに憤慨した店員が、客である高齢男性に対し投げ飛ばすなどの暴行をしてしまったという事件です。


事件が掲載されているページのコメント欄を読むと、もちろん暴行自体は絶対に許されざる行為としながらも、おおむね店員側に同情するという内容の書き込みが目立ちました。


事件の詳細は分かりません。


もしかしたら釣り銭の渡し方が本当に雑で、お金を投げつけるような嫌な渡し方だったのかもしれません。

逆にクレームが正当でない場合も考えられます。(新型コロナウイルスの影響もあり、昨今は特にトレーでの受け渡しを推奨しているので)


詳細は分からない。


それでも、私も最初ニュースを聞いた時どんな酷いクレームの付け方をされたんだろうと思ってしまいました。


それは、接客業の経験があるからだと思います。


飲食の世界で働いて10年以上。飲食と接客は切り離せません。
そのうち2年は、接客に重きを置いた惣菜販売店で勤めた経験があります。
そのわずか2年あまりでも、クセの強い客への接客経験があります。


仕事として接客経験のある方は多いと思います。


接客業を経験すると、理不尽なクレームを受けたり、変なお客様からからまれたり、、とあまりポジティブではない経験が増えます。


件のコンビニ店員の方へ同情的なコメントが集まったのも自然なことなのではないでしょうか?

サービスに対価は存在するか

飲食という仕事に携わって10年以上になります。冒頭のようなニュースを耳にする度に考えてしまうこと。


それは、接客というサービスについて


例えばコンビニでひとつ200円の肉まんを買ったとします。


お支払いをして、店員さんが笑顔でそして元気な声でありがとうございます!というコンビニと、無愛想でしかも小声で「っしたー」というコンビニ。
お箸やおしぼりはご利用されますか?の一声があるコンビニと、そのまま紙袋に入れて渡すだけのコンビニ。


どちらのコンビニ店員の接客が好まれるのかは、一目瞭然です。


しかし、どちらのコンビニを利用したとしても購入者が支払っているのは200円のみ


店員の接客が良かったからといって、お客様がチップをおまけしてくれるわけではありません。
そして購入者が肉まんを買うという意思決定を下したのも、接客というサービスを受ける前です。


もちろん、店員の接客がイマイチと感じたら次からそのコンビニを使わないようにしよう、と思われる方もいらっしゃると思います。


接客サービスの良し悪しで、確かに顧客満足度は変わります。
顧客満足度は、お客様の来店数にも影響を与えるかもしれません。
来客数が変われば店舗の売上にもかかわることでしょう。


ゆえに接客というサービスは常に質の良いものを求められます。
それは、経営者であっても、客側であっても、雇用されている側であっても分かりきったことです。
しかし、良い接客をしたからといって対価=給与に反映されることはまずありません。


なぜなら、賃金の対象となっているのは「時間」だからです。
目に見えない接客というポイントは、給与の対象ではないのです。
それは月給制の社員であっても同じことです。

良い接客をして顧客満足度は上がっても給与は上がらない

惣菜販売店に努めていた時、昇級のための社内検定を受けたことがあります。
その検定のクリア項目には「感じの良い接客を行う」という課題が含まれていました。

感じの良い接客という項目のポイントは、

1,笑顔でお客様と接する。
2,「ら」を発声するときの口の大きさで、「いらっしゃいませ」と言う。
3,調理中も売り場を意識し、(調理中の)手元ではなくお客様の方を意識する。
4,売り場に居るお客様に積極的に話しかける。

などといったものでした。


問題は、昇級であって昇給ではないことです。


検定を受ける際、同僚が検定に合格したら給与が上がるんですか?と会社側に確認していましたが、「上がりません」の一言でした。
さらに同僚が食い下がり、「それって(私達にとって)やる意味あるんですか?」と聞いたところ、「やる意味あるでしょー笑!」との答え。


確かに検定を行って、接客のクオリティを上昇、維持することには意味があります。経営側にとっては。
特に競合他社の多すぎる飲食の世界では「味はいいけど、店員の態度がよくないから行かない」なんてこともざらにありえます。


ただし、悪い接客をしたからといってペナルティがあるわけでもないのです。
接客の悪さで客足が遠のいた結果、お店自体の売上は低下してしまうかもしれません。
それでも、社員やアルバイトの給与がダイレクトに下げられる可能性は低いです。
さらに言えば、自分の働きを評価してくれない会社や雇用先の経営状況が悪化したとしても、働く側は次の雇用主を探せばいいだけです。
むしろ人手不足のこのご時世、辞められてしまうことのほうが雇用主側にとっては大ダメージでしょう。


「お客様からのありがとうや笑顔が何よりの働きがいだ」


なんて接客業に向いている人ばかりの世の中ではありません。
このヒトは接客業に向いているなぁ、本当に接客が好きなんだなぁ、なんて人は10年以上飲食に携わって来ましたが、今まで1人か2人くらいにしかお会いしたことがありません。


しかも、客を選べない立場の接客業に就いてもいいという人は年々少なくなっていると感じます。
慢性的な人手不足のなか、常に足りないシフトで回っている現場。
特に飲食業を取り囲む状況は、売上が伸び悩む中で人件費や材料費などの経費は上がり続けています。



惣菜店に勤務していた約2年、お客様から最近接客や品物が悪くなったわね、なんて耳の痛い意見も頂きました。
従業員への教育に割く時間やシフトのゆとりがなかった、という現実もあります。


良い接客をするためには、精神的にも時間的にもゆとりが必要です。


作業や調理に追われて疲弊し、笑顔も覇気もなく黙々と業務をこなす。
大きなクレームには繋がっていないものの、従業員同士やお店の雰囲気の悪さからなんとなく客足が遠のく。
売上はますます伸び悩む。


この悪循環に陥っている現場は多いのではないでしょうか。

対価が存在しないサービスの行方

日本人は、目に見えない価値に金銭を支払うという文化がない国です。


目に見える価値、例えば国産牛や、有機栽培の野菜を使ったレストランの食事に正当な対価を払うことに抵抗がある方はあまりいないと思います。
しかし、素材を最大限に活かすシェフの腕前や、タイミング良く料理をサーブしてくれた給仕の技術には意識さえ及ばない方が多いと思います。


サービス料という名目できちんと対価を得ている高級レストランや高級ホテルも存在します。
問題はサービス料が発生していなくても高級レストランや高級ホテル並の接客を求められた時です。



私は、働く側の意識改革が重要だと思っています。


よく言われるのが、接客業は「お客様あっての私達」という言葉です。
クレームが発生しても、笑顔で接客することが大事。次も利用していただくために、気持ち良く買い物や食事を楽しんでいただく。


しかし、私はそう考えていません。
理不尽だと感じたらきちんと断ることが大事だし、自分の時間を切り売りしてまでサービスはしなくていいと考えています。
対価がないんだから接客に手を抜け、と言っている訳ではありません。
最低限敬語でお客様には接するべきですし、笑顔でのサービスも大事だと思います。


けれど理不尽なクレーマーから守ってくれない職場や、サービス残業を強いてくるような会社からは即刻離れるべきです。
接客業は客を選べない立場かもしれませんが、働く場所は選ぶことができます
そうして必要な従業員を確保できなくなった店舗はどんどん淘汰されていくでしょう。それで良いのです。


最終的には、サービスに対価が存在する高級店と、存在しない低価格のお店の二極化がどんどん進んでいくのだと考えています。
サービスにお金を払う余裕のある人だけが、感じの良い素晴らしい接客サービスを受けることが出来る時代になっていくのだと思います。


近年では受付、注文、支払いまで機械化が進んでいる店舗も増えています。
主に人員不足や費用対効果を考えてのことだと思いますが、どんどん歓迎されるべきことだと思います。

まとめ

フードコートや家族連れで賑わうファミレスにはないものが、値段設定が高めの落ち着いたレストランやお店にはあります。
逆にドレスコードが必要なレベルのお店で空腹を満たす必要のない人も居ます。


これからの接客業は、ますます棲み分けが進むと思います。
問題なのは、サービスに対価を払うこともしないのにサービスを求めてくる客に当たった場合です。


それも、冒頭の事件のコメント欄を見ていると、時代とともに客側が淘汰されていくのではないだろうかと考えています。
楽観的すぎでしょうか。
目に見えない価値に金銭を支払わない日本人にも良い点があります。


それは同調圧力に弱い点です。


2000円そこらしか払ってないのに、王様を相手にするような態度を求めるなんて常識がないなぁ。
恥ずかしくないのかしら。
そんな雰囲気で社会を満たせば、あるいは・・・。


やはり楽観的でしょうか?


今しばらく飲食の世界に身を置きつつ、推移を眺めて行こうと思います。



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