先日、気になったニュースがありました。
コンビニ店員を傷害容疑で逮捕 高齢男性重体 釣り銭の渡し方注意され、投げ飛ばし床に打ち付け顔殴る/Yahoo!ニュースより引用(現在記事は削除されています)
お客様から釣り銭の渡し方が悪いと注意を受けたことに憤慨した店員が、お客様を投げ飛ばすなどの暴行をしてしまったという事件です。
事件が掲載されているページのコメント欄を読むと、もちろん暴行自体は絶対に許されざる行為としながらも、おおむね店員側に同情するという内容の書き込みが目立ちました。
事件の詳細は分かりません。
もしかしたら釣り銭の渡し方が、本当に雑で、お金を投げ渡すような嫌な渡し方だったのかもしれません。
逆に、お客様のクレームが正当でない場合も考えられます。(新型コロナウイルスの影響もあり、昨今は特にトレーでの受け渡しを推奨しているので)
詳細は分からない。
それでも、私も最初ニュースを聞いた時はどんな酷いクレームの付け方をされたんだろうと思ってしまいました。
それは、接客業の経験があるからではないかと思います。
飲食の世界で働いて10年以上。飲食と接客は切り離せません。
そのうち2年は、接客に重きを置いた惣菜販売店で勤めた経験があります。
そのお店は手作りの惣菜を販売するお店でした。
店内で調理した惣菜を店先に並べ、接客からレジ打ちまで一連の流れを行う、という形態です。
そのわずか2年あまりでも、クセの強いお客様や、あまり関わりたくないなぁと感じるお客様はいらっしゃいました。
コンビニや、あるいは飲食店でも、アパレルでも、アルバイトなどで接客経験のある方は多いと思います。
むしろ接客業のほとんどがアルバイトやパートなどで人員をまかなっている現在、接客をした経験のない方のほうが珍しいかもしれません。
接客業を経験すると、理不尽なクレームを受けたり、変なお客様からからまれたり、、とあまりポジティブではない経験が増えます。
件のコンビニ店員の方へ同情的なコメントが集まったのも自然なことなのではないでしょうか?
サービスに対価は存在するか
飲食という仕事に携わって10年以上になります。
冒頭のようなニュースを耳にする度に考えてしまうこと。
それは、接客というサービスについて。
例えばコンビニでひとつ100円の肉まんを買ったとします。
お支払いをして、店員さんが笑顔でそして元気な声でありがとうございます!というコンビニと、無愛想でしかも小声で「っしたー」というコンビニ。
お箸やおしぼりはご利用されますか?の一声があるコンビニと、そのまま紙袋に入れて渡すだけのコンビニ。
どちらのコンビニ店員の接客が好まれるのかは、一目瞭然です。
しかし、どちらのコンビニを利用したとしても購入者が支払っているのは同じ108円のみ。
店員の接客が良かったからといって、お客様がチップをおまけしてくれるわけではありません。
そして、購入者が肉まんを買おうという意思決定を下したのも、肉まんと100円という数字のみを見比べた時です。
もちろん、店員の接客がイマイチと感じたら次からそのコンビニを使わないようにしよう、と思われる方もいらっしゃると思います。
接客サービスの良し悪しで、確かに顧客満足度は変わります。
顧客満足度は、お客様の来店数にも影響を与えるかもしれません。
来客数が変われば店舗の売上にもかかわることでしょう。
なので、接客というサービスは常に質の良いものを求められます。
それは、経営者であっても、お客様であっても、雇用されている側であっても分かりきったことです。
しかし、良い接客をしたからといって、対価=給与に反映されることはまずありません。
なぜなら、アルバイトでもパートでも、賃金の対象となっているのは「時間」だからです。
目に見えない接客というポイントは、給与の対象ではないのです。
それは時間給ではなく、月給制の社員であっても同じことです。
良い接客をしても給与は増えない現実
惣菜販売店に努めていた時、昇級のための社内検定がありました。
その項目の中には感じの良い接客をする、という項目がありました。
感じの良い接客という項目のポイントは、
1,笑顔でお客様と接する。
2,「ら」を発声するときの口の大きさで、「いらっしゃいませ」と言う。
3,調理中も売り場を意識し、手元ではなくお客様の方を意識する。
4,売り場に居るお客様に積極的に話しかける。
などといったものでした。
問題は、昇級であって昇給ではないことです。
検定を受ける時、同僚が検定に合格したら給与が上がるんですか?と会社側に聞いたところ「上がりません」の一言でした。
さらに同僚が食い下がり、「それって(私達にとって)やる意味あるんですか?」と聞いたところ、
「やる意味あるでしょー笑!」との答え。
確かに検定を行って、接客のクオリティを上昇、維持することには意味があります。経営側にとっては。
特に競合他社の多すぎる飲食の世界では「味はいいけど、店員の態度がよくないから行かない」なんてこともざらにありえます。
ただし、良い接客に対する会社の対価はゼロ。
そして悪い接客をしたからといって、ペナルティがあるわけでもないのです。
接客の悪さで、客足が遠のいた結果お店自体の売上は低下してしまうかもしれません。
それでも、社員やアルバイトの給与がダイレクトに下げられる可能性は低いです。
さらに言えば、自分の働きを評価してくれない会社や雇用先の経営状況が悪化したとしても、働く側は次の雇用主を探せばいいだけです。
愛想も良く、お客様からのありがとう、や笑顔が何よりの働きがいだ。
なんて接客業に向いている人ばかりの世の中ではありません。
このヒトは接客業に向いているなぁなんて人は、10年以上飲食に携わってきて今まで1人か2人くらいしかお会いしたことがありません。
しかも、お客を選べない立場の接客業に就いてもいいという人は年々少なくなっていると感じます。
慢性的な人手不足のなか、常に足りないシフトで回っている現場。
特に飲食業を取り囲む状況は、売上が伸び悩む中で人件費や材料費などの経費は上がり続けています。
惣菜店に勤務していた約2年、お客様から最近サービスや品物が悪くなったわね、なんて耳の痛い意見も頂きました。
改善するための時間的やシフトのゆとりがなかった、という現実もあります。
良い接客をするためには、精神的にも時間的にもゆとりが必要です。
作業や調理に追われて、疲弊し、笑顔も覇気もなく黙々と業務をこなす。
クレームにはなってないものの、雰囲気の悪さからなんとなく客足が遠のく。
売上はますます伸び悩む。
この悪循環に陥っている店舗は多いのではないでしょうか。
対価が存在しない飲食サービス業の行方
日本人は特に、目に見えない価値に金銭を支払うという文化がない国です。
目に見える価値、例えば国産牛や、有機栽培の野菜を使ったレストランの食事に正当な対価を払うことに抵抗がある方はあまりいないと思います。
しかし、素材を最大限に活かすシェフの腕前や、タイミング良く料理をサーブしてくれた給仕の方の技術には意識さえ及ばない方が多いと思います。
もちろん、サービス料という名目できちんと対価を得ている高級レストランやホテルも存在します。
問題は、サービス料を頂いていなくても、高級レストランやホテル並の接客を求められた時です。
私は、働く側の意識改革が重要だと思っています。
よく言われるのが、飲食接客業は「お客様あっての私達」という言葉です。
だから、どんな理不尽だと思っても笑顔で接客することが大事。
お客様に次も利用していただくために気持ちよく買い物や食事を楽しんでいただく。
しかし、私はそう考えていません。
理不尽だと感じたらきちんと断ることが大事だし、自分の時間を切り売りしてまでサービスはしなくていいと考えています。
もちろん、対価がないから接客に手を抜け、と言っている訳ではありません。
最低限敬語でお客様には接するべきですし、笑顔でのサービスも大事だと思います。
しかし、理不尽なクレーマーから守ってくれない職場や、サービス残業を敷いてくるような会社からは即刻離れるべきです。
私達はお客様を選べない立場かもしれませんが、働く場所は選ぶことができます。
そうして必要な従業員が確保できなくなった飲食店はどんどん淘汰されていくでしょう。
それで良いと思っています。
最終的には、サービスに対価が存在する高級店と、存在しない低価格のお店の二極化がどんどん進んでいくのだと考えています。
そして、サービスにお金を払う余裕のある人だけが、感じの良い素晴らしい接客サービスを受けることが出来る時代になっていくのではないでしょうか。
近年では回転寿司店など、受付、注文、支払いまで機械化が進んでいる飲食店も増えています。
主に人員不足や、費用対効果を考えてのことだと思いますが、どんどん歓迎されるべきことだと思います。
まとめ
フードコートや家族連れで賑わうファミレスにはないものが、値段設定が高めの落ち着いたレストランやお店にはあります。
逆に、ドレスコードが必要なレベルのお店で空腹を満たす必要のない人も居ます。
これからの飲食店は、ますます棲み分けが進むと思います。
問題なのは、自分がサービスに対価を払うことをしないのに、サービスを求めてくるお客様がいらっしゃった場合です。
それも、冒頭の事件のコメント欄を見ていると、時代とともに淘汰されていくのではないだろうかと考えています。
楽観的すぎでしょうか。
目に見えない価値に金銭を支払わない日本人にも良い点があります。
それは同調圧力に弱い点です。
1000円そこらしか払ってないのに、王様を相手にするような態度を求めるなんて常識がないなぁ。
恥ずかしくないのかしら。
そんな雰囲気で社会を満たせば、あるいは・・・。
やはり楽観的でしょうか?
今しばらく飲食の世界に身を置きつつ、推移を眺めて行こうと思います。