
先日、気になるニュースが飛び込んできました。
丸紅、新卒総合職の半数女性に 「男社会」脱却へ大幅増
日本を代表する総合商社・丸紅が「女性活躍」を推進するためにクオータ制を導入することを決定したのです。
このニュースは、従来の「男社会」というイメージから大きな変化を示すものであり、多くの人々に衝撃を与えました。
参照記事:丸紅「新卒総合職の女性5割へ」に文句タラタラの”残念な男たち”が知るべき真実
クオータ制とは、特定のグループに対して一定の割合で採用枠を設ける制度のこと。
(新卒総合職の採用は政治システムではありませんが、分かりやすさを考慮し、この記事ではこの用語を使用します)
それではなぜ丸紅はクオータ制を取り入れたのでしょうか。
なぜ今になって丸紅はクオータ制を取り入れたのか

なぜ丸紅がクオータ制を取り入れる決定をしたのか。
テレビ朝日のニュースサイトによると、「大多数が男性で構成される組織のままで、世の中の課題を先取りし解決することができるのか」という問題意識から、環境の変化に対応するために多様性が必要だと判断した結果のクオータ制だったようです。
社員の約80%が男性というまさに「男社会」の丸紅。新たな発想を取り入れるために多様性を求める。
「多様性が必要=新卒女性採用枠を増やす」という考え方には賛否が分かれますが、現状のままでは時代の変化に対応できないという危機感を大企業が持ち始めたことは、(10〜20年遅くないか?というツッコミはひとまず置いて)一定の評価に値します。
否定的な意見が多いコメント欄

各種報道番組で取り上げられたこのニュースに対し、コメント欄には意外にも否定的な意見が多く寄せられていました。
ざっとコメントで欄に目を通しましたが、肯定的な意見は全体の2割にも満たなかったのではないかと思います。
コメント欄の意見を抜粋すると、
「数字合わせの採用はレベルが下がるだけ」
「男女関係なく優秀な人材を採用すべき」
「男女比率は結果論に過ぎず、逆差別につながる」といった意見が見受けられます。
皆さんはどのように感じられたでしょうか。
私自身は、このニュースに対してポジティブな感想を持って受け入れましたが、一般的にはそうではなかったようです。
「性別に関係なく優秀な人材を採用し、最終的にその比率が半々であれば良い」という考え方は、確かに理想論と言えるでしょう。しかし、現実はその理想には程遠いのが実情です。
実情的にも「男社会」の考え方や発想から抜け出せていない丸紅は、環境の変化に対応できる人材が減少しているからこそ、危機感を抱いているのでしょう。
コメント欄が否定的な意見で溢れていることからも、丸紅内部での議論や葛藤があったことは容易に想像できます。
それでも、まずはできることから変えていこうという姿勢が、クオータ制の導入につながったのだと考えられます。この姿勢は、純粋に評価すべきでしょう。大企業であればあるほど、制度を変える動きは鈍くなりがちですが、その中での変革は重要だからです。
そもそも優秀な人材とは

コメント欄を見ていて思ったのですが、そもそも「優秀な人」とはどのような人を指すのでしょう。
例えば、「一を教えれば十できる人」や、「指示待ちではなく、自ら進んで仕事に取り組む人」、「接遇や応対マナーを完璧にこなす人」、「営業成績や生産性が高い人」など、さまざまな定義が考えられます。
しかし、これらは一概に言えるものではありません。企業によって求められる人材は異なり、それに伴って「優秀な人」の定義も変わるからです。
また、評価を下す直属の上司によっても「優秀さ」は異なるかもしれません。
「一を教えれば十できる人」は、組織にとっては優秀でも、上司にとっては可愛げのない新人と見なされることもあります。
「どんどん仕事に取り組む人」は、アクセス権や決定権のない事象に首を突っ込むことがあるかもしれませんし、「接遇マナーが完璧な人」でも、時には理不尽なクレームに直面することがあります。
「営業成績や生産性が高い人」は、周囲の営業不振の人と反りが合わず、結果的に組織の和を乱す可能性もあります。
このように、「優秀な人」の定義は多岐にわたりますが、果たして入社前の試験や面接だけでその優秀さを測ることができるのでしょうか。
エントリーシートには学歴や資格が記載されているものの、面接でわかるのは話し方や雰囲気に限られます。面接官も企業にとってプラスになる「優秀な人」を採用したいと考えていますが、入社後にしかその優秀さは判断出来ないのです。
面接官が判断できるのはせいぜい「優秀そうに見える人」と「育成しても途中で退職しないように見える人」です。
丸紅の新卒採用枠が男性に偏っているのは、業務内容が過酷であることが一因であることは間違いありません。
しかし、女性を多く採用した場合、出産などで育児休暇を取得した際の穴埋めをしなければならないというリスクを避けたいという考えもあったのではないでしょうか。
女性の場合、男性とは異なり「育児休暇を取得しない」という選択肢は存在しません。他に選べる選択肢は「退職」のみです。
一方で、男性はパートナーが妊娠・出産を迎えた際に「育児休暇を取得するか、しないか」の両方の選択肢を持っています。
そのため、女性を新入社員として多く採用し育成しても、4〜5年で退職してしまう可能性が高いと考えられています。そうであれば、育成にかけるコストをできるだけ抑えるために男性を多く採用しようという考えを持つ企業は、日本にはまだ多く存在するでしょう。
実際、そのような社会的背景のなか日本経済は発展してきました。
面接官の年齢や考え方から、明確ではなくともなんとなくそのような採用基準が設けられてしまうのは残念ながら自然なことと言えます。
しかしだからこそ、クオータ制導入には意義があります。
けれど正直に言えばクオータ制導入だけでは「多様性を獲得する」という目標は達成できないとも私は考えています。
中途採用枠の割合を増やし、新卒採用枠の割合を減らすべし

クオータ制の導入だけでは不十分。ならばどうすればいいのか。
それは全員が22〜24歳となる新卒入社の性別を均等に分けるだけでなく、中途採用の人員枠を増やすことです。様々な年齢、経験、国籍の人員を採用すれば自然と多様性を確保することになるからです。
もちろんクオータ制の導入は、単独では不十分ながらも、一定の効果をもたらすとも考えています。
例えば、「ジェンダーギャップ指数」という指標があります。
これは、世界経済フォーラムが毎年発表するもので、経済、教育、保健、政治分野における男女平等度を示しています。日本は先進国の中で最下位に位置しており、2020年には前年よりもランクが下がるという深刻な状況です。
2020年、東京オリンピック組織委員会の森会長が自身の失言により辞任しましたが、日本国内の女性よりも、各国の反応が予想以上に厳しかったことに驚かれた方も多いのではないでしょうか。
これは、私たちが女性蔑視や軽視の状況に慣れすぎていることを示しています。
「あの年代の男性はそういう教育を受けてきたから仕方がない」と考える方もいるかもしれませんが、これは決して許されることではありません。
20年から30年前にはそれでも国や企業、家庭がうまく機能していたかもしれません。
しかし、現在は出生率の低下、経済成長率の停滞、給与所得の上昇がない一方で、社会負担費は増加し続けています。このような状況を打破するためには、クオータ制を無理にでも導入することが重要です。
クオータ制を実施するからには、その維持のために必要な枠組みや体制を整えることが求められるからです。そしてこの枠組みや体制こそが、働き方改革を推進するための鍵であると考えています。
まとめ

丸紅だけでなく、他の大企業でも同様の体制や枠組みが整備されれば、女性だけでなく、年齢や国籍に関係なく、誰にとっても働きやすく、暮らしやすい国へと進化していくのではないでしょうか。
日本は変化を好まず、そのうえ変化に対して苦手意識を持つ国です。ですが、もはやそのような状況を続ける余裕もありません。
このような背景から、丸紅ができることから少しずつ変革を進めていこうというメッセージを込めたクオータ制導入のニュースは、非常に意義深いものでした。
女性の採用を増やすという数値目標にとどまらず、その成果を持続可能な形で維持するための枠組みや体制を整え、成功させることが求められています。
この記事を書くにあたり、私はその思いを強く抱いています。
また、丸紅に続く企業が現れることを期待しています。
少しでも働きやすい国になること。それはもちろん男性にとっても同様です。
この機会を通じて、日本社会がより良い方向へ進むことを心から願っています。