卵の値段がじんわりと上がってきていることにお気づきでしょうか。
私がいつも利用しているスーパーでは、2020年末までは1パック(10個入)109円で買えたのが、今年に入り119円、そして5月頭あたりからついに129円にまでなってしまいました。
昨年まで毎週水曜日は特売日で98円で売り出していたのですが、その特売日自体が今年に入って無くなってしまったので、より値段が上がったのを感じてしまいます。
値段が上がった理由は、昨年秋冬頃から流行っている鳥インフルエンザの影響で、鶏が大量に殺処分されたためです。
いつまで値上がりしたままなのか気になって調べたのですが、半年後には落ち着くだろうという説や、まったく見通しが経っていないとの説もあり、よくわかりませんでした。
しかしどんどん調べていく途中、卵の値上がりリスクは鳥インフルエンザだけではないということにたどり着いてしまったのです。
値上がりリスクは鳥インフルエンザだけじゃない?!
卵といえば、この事件を覚えていらっしゃるでしょうか。
大手鶏卵生産業者アキタフーズグループの元代表が、元農林水産大臣に便宜供与を狙って現金を渡した疑いを持たれているという事件です。
(アキタフーズのサイトに飛びます)
便宜供与目的、ということでしたがその便宜のひとつが、「アニマルウェルフェアを反映した鶏の国際基準案に反対」してもらうことだったとされています。
アニマルウェルフェアとは、一言で言えば「動物福祉」。
農林水産省のホームページからお借りしたパンフレットの図を下記に貼り付けておきます。
アニマルウェルフェアで謳われているのは、下記の5つの自由です。
1.餓え、渇き、栄養不良からの自由
2.恐怖及び苦悩からの自由
3.物理的、熱の不快からの自由
4.苦痛、障害、疾病からの自由
5.通常の行動様式を発現する自由
あれ、これ守れてないブラック企業たくさんあるくね?と一瞬思ってしまいますがグッと堪えて、人間の話ではなく鶏と卵の話をします。
アニマルウェルフェアでは、5つの自由を柱として、さまざまな取り組みを実施することを謳っています。
アニマルウェルフェアに取り組むことで、結果的に、家畜もストレスを感じなくなり、病気にかかりにくくなったり、生産性が上がったりするよ、ということのようです。
今のところこの国際基準に法的な拘束力はなく、日本でも現在「こういう考え方もあるよ」みたいな普及活動をしているにとどめているようです。
しかし、将来的に基準に取り入れられるのではないか、という可能性はあります。
アニマルウェルフェアの言い出しっぺ、欧州では取り組みが盛んで2012年にはすでにケージ飼いが禁止されたそうです。
(ケージ飼いを続ける場合には、巣、砂場、とまり木などが揃ったケージでなけれればならないそうです)
またアメリカでもケージ飼いされた鶏の卵の販売が禁止されている州が7つあるそうです。
将来的にアニマルウェルフェアが国際基準となれば、日本が「日本産の卵は生でも食べられるから衛生的に優れている!美味しいよ!」と輸出・宣伝したくても、「平飼いされてない強制収容所のようなケージで、産ませてるんだろ。そんな卵、鶏がかわいそうだし食べるに値しないわ、フンッ」といった感じで受け入れてはもらえないということです。
アニマルウェルフェアに従うと卵の値段は上がる
それではここでもう一度農林水産省のパンフレットにご登場いただきましょう。
アニマルウェルフェアに従うことで、生産コストは上昇しないとのことですが、本当にそうでしょうか。
というかパンフレット内に書かれている項目だったら、すでに守っている生産農家のほうが多そうです。
家畜が病気になってしまったら、そして他の家畜に移してしまうような病気だったら大変ですし、そのためにも日々観察やお世話をしていると思います。
水や餌だって、餓えさせたらそもそも生産物である卵や、乳牛ならミルクが取れません。
まぁ、なんというか農林水産省的にも生産農家に最大限配慮しつつ、欧州に対してもちゃんと取り組んでますよアピールしているのかな、という雰囲気です。
日本お得意の戦法ですね。
もしアニマルウェルフェアで謳われているすべての自由に従おうとすれば、現在日本で使用されているケージでは基準を満たしていません。
ケージを取り替えたり、新しく鶏舎を建て替えたりと、途方も無いお金がかかることは容易に理解できます。
また、平飼い飼育はケージ飼育と比べてかなり広い土地が必要になります。
平飼いとは、鶏を地面に放して飼う方法です。
どちらの飼い方がより多く鶏を飼育でき、より多くの卵を出荷できるのかは目に見えています。
アニマルウェルフェアとは、動物福祉。
丁度私たち人間に対する福祉を厚くしようとすると、社会保険料や税金があがったりするのと同じで、一挙両得はできないのです。
ちなみにアニマルウェルフェアへの取り組みが盛んなヨーロッパでの卵の値段は、1パック400円〜だそうです。
毎日食べるとなると、ちょっと購入するのに勇気がいる価格ですね。
日本人はどうして卵が大好きなのか
キユーピーのサイトによれば、2018年の日本人の卵における年間消費量は一人あたり337個。
ほぼ毎日1個食べている計算になります。
これは世界的に見ても多いらしく、メキシコについで二位の消費量だそうです。
目玉焼きに、卵焼き、茶碗蒸しに、オムレツ。
ざっと思いつくだけでもいろんなレパートリーがある卵ですが、そもそも日本人はなぜこんなに卵が大好きなのでしょうか。
理由の一つは、もちろん値段の安さ。そしてその安さが安定していることです。
先に述べたように、ケージ飼いで大量生産することで、卵の値段を安く抑えつつ、大量の安定供給につなげているのです。
もちろんお米と同じように、政府からの補助金の投入もあります。
鶏が卵を生みすぎた場合は、供給が多すぎて通常であれば卵の値段は下落します。
そうならないために、鶏を出荷(食用などで)、鶏舎を空きにすることで、奨励金という形で補助金が支給されるシステムのようです。
高すぎず、値段が下がりすぎた時は国が補助する。
値段が安定しているのは、卵の魅力の一つです。
2つ目の理由が栄養価が高いことです。
上記はグリコのホームページからお借りしたものです。
アミノ酸スコアとは、体内で生成できない必須アミノ酸9種類がどれだけバランスよく含まれているのかを示す数値。
100に近づくほど、アミノ酸に関して理想的な栄養価を持つ食品となります。
また、卵は牛肉や魚肉、大豆と比べても遜色ないくらい、体内での利用効率がよい食品です。
皆さんも、家庭科で卵はビタミンCと食物繊維以外が含まれている、健康的で理想的な食品であると習ったのではないでしょうか。
卵は体に良い食べ物である。
そんな共通認識が子供の頃から日本人の中にはあります。
栄養価が高い上に、値段も安く、安定している。
おまけに生で食べても、茹でても焼いても煮ても揚げても美味しい。
彩りも華やかにしてくれる。
卵が好かれるのは、当然ですね。
卵の値段が上がることは長い目で見るとそんなに悪いことじゃない
値段が安定しているのが魅力の卵ですが、では値段が上がるとどうなってしまうのでしょうか。
もちろん、家庭への影響は大きいでしょう。
家庭だけにとどまらず、マヨネーズなどの調味料や卵が原材料に含まれている製品の値段も上がります。
街のお菓子屋さん、ケーキやタルトやプリンの値段も上がり、特別なスイーツはますます特別な日だけにしか食べられなくなるでしょう。
外食、中食産業ももちろん費用が上がるので、価格を上げざるをえません。
そうやってどんどん物価が上昇していく・・・。
しかし長い目で見れば、適度なインフレは経済を回復させるという意味ではとても有効的です。
物価上昇に伴って、売上や利益率があがり、ひいては賃金収入の上昇につながる(ハズ)だからです。
あれ?
卵の値段が上がることってそんなに悲観することでもないんじゃ?
物価上昇と賃金収入の上昇がセットで行われた場合は、値上げ=悪ではありあません。
最低賃金を全国平均で1000円(ちなみに2021年5月現在は902円です)を目指すと菅首相が表明していましたが、コロナを乗り切った後の国と企業にその体力が残っているか・・見守るしかありません。
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いずれ来るであろう「その日」
鳥インフルエンザ、アニマルウェルフェア、そして他にもまだ卵の値上がりリスクは潜んでいます。
卵を生む鶏の親の親(原種鶏というらしいです)はほとんどが輸入。
また、卵を生むために与えるエサもほぼ輸入品です。
特にエサのトウモロコシや大麦、小麦はその年の収穫量によって値段が左右されます。
また、この20〜30年で物価は上昇しているにも関わらず、卵の値段はそれほど上がっていません。
パックやエサ代などのコストは絶対に上がっているはずなのに、です。
今はまだ20円程度の値上げで済んでいますが、この先値段が戻るとは限りませんし、世界的な流れから見れば、上昇してくのが正しいという見方だと思われます。
ただ、流石にいきなり400円まで値上がりすることはないはず。
「その日」が来るまでは、卵を美味しく食べることに集中しましょう。
私も、169円でゲットした卵の味を噛み締めて食べたいと思います。
(129円の卵は売り切れでした、ぴえん!)
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