アート

【大分県立美術館】ペーパー・サンクチュアリ-ウクライナ難民の現実と詩-【感想】

投稿日:2024年1月15日 更新日:

サンクチュアリ。聖域。外敵から守られて、安全な地域。


2022年2月24日、ロシアによる侵攻から突然始まった戦争。


住んでいた家を、土地を追われたウクライナの人々は1,300万人以上いると言われています。
また、そのほとんどが女性、子ども、高齢者で、加えて着の身着のまま、荷物や財産の多くを持ち出せず徒歩やバス、鉄道で逃げ出すことを余儀なくされた人たちです。


這々の体でたどり着いた避難所。
その場所で人としての尊厳を保つため、プライバシーを確保する。
そのために考案されたのが、紙の間仕切りシステムです。


紙の間仕切りシステムを考案したのは、世界的建築家でもあり、大分県立美術館の設計を手掛けている坂茂氏。


軽量で丈夫なダンボール製の柱に、布を御簾のように垂らした間仕切りは簡素でありながらも一瞬「他人の視線」から自分を守る空間を作ってくれます。


紙の間仕切りをキャンパスに、ウクライナ出身の詩人スヴェトラーナ・ラヴォーチキナ、ベルリンを拠点に活躍する写真家ヴィンセント・ヘイグスの作品を、戦争難民として自身もベルリンにいるウクライナの作曲家ヴァレンチン シルヴェストロフの音楽とともに体感するというメッセージ性の強い展示となっています。

家を奪われた人たちの詩

白く、大きなキャンパス地に綴られた詩。
住んでいた家を、日々の生活を突如として奪われた人々の生々しい傷跡が綴られた詩。
戦火から逃れるために、あてどない列車やバスの運行を待つ無力な人々の表情。
不安で、疲労を抱えながらも幼子をしっかりと抱きかかえる母親の写真。

砲弾や銃弾は人を選びませんから、妊婦であろうが、障害を抱えていようが、子どもであろうともどこまでも追いかけて来ます。

日本はロシアと国境を接しています。
台湾有事が囁かれ始めて数年が経過しました。
北朝鮮は今日もミサイルを発射しています。

彼らの身の上に起こっている現実は決して他人事ではありません。
わたしは、たまたま爆弾が降ってこなかっただけの幸運な日々を送っているのでしょう。

紙の間仕切りシステム

避難所でもプライベートな空間を確保できること。それは人間性を保つ上でも重要なことです。


いつでもどこでも他人の視線がある、雑魚寝状態の体育館ではストレスから体調、精神を壊しやすくなります。
まして「いつ帰れるとも分からない」難民ならなおさらです。


坂氏の考案した紙の間仕切りシステムは、2011年の東日本大震災、2016年熊本地震の際も日本国内の避難所でも活用されたとのことです。また現在、欧州各地の難民避難所にも提供されているそう。

筒状のダンボールを組み合わせて柱にしているようです。中が空洞なので、軽量で設置しやすそうですね。

ちなみにベッドもダンボール製(※受付で作品に触れてもOKとの確認済みです)。

ぶっちゃけ無理ゲー

上記は間仕切りシステムを2Fから撮影したものです。


プライバシーを確保するため、軽量の紙を素材にして個人的な空間を作る間仕切りシステム。


日本は特に地震や豪雨などの災害が多発する国でもあります。
災害が起こる度避難警報が発令され、メディアでは体育館に敷き詰められただけの毛布で区切られたスペースとも言えない場所で雑魚寝する人々の姿が放映されます。


2024年1月1日に発生した能登半島地震でもそのような様子が映し出されました。


各自治体、地域の避難場所に指定されている施設で、非常食や水などと一緒に、この間仕切りシステムが備蓄されていれば少しは安心感が増すと思います。

しかし、正直なところ私がこの避難場所で精神を保てるのはせいぜい数日程度だと感じました。下手すると数時間程度かも・・・。


なぜならば、「他人の視線しか断つことができない」からです。


単刀直入に言えば、女性にとって一番懸念される「性暴力」が防げるような安心感は皆無です。
身体の接触を伴う暴力ではなくとも、薄布一枚隔てた向こうに見知らぬ男性が居る恐怖。不快感。
「うっかり」を装った覗きや、侵入は防げないでしょう。何より天井は空間がそのまま空いています。


生きるか死ぬかの時に何を贅沢なこと言ってんだ・・と考える方もいらっしゃるかもしれません。

しかし重大なことなのです。
生きるか死ぬかの時にだって女性や子どもは性犯罪の被害にもさらされるのです。

東日本大震災でも熊本地震でも、避難所での性的暴行は発生しています。もっと言えば阪神淡路大震災でも。
しかもその避難所の他に行くところが無い、その後の避難生活を考えて被害を訴えにくい、そもそも警察も取り合ってくれない、というケースもあります。


この間仕切りシステムが無意味とか、そういうことが言いたいのではありません。


けれど可能な限り、地震や災害での避難は、インフラが生きている別の県や市に疎開という形で避難するほうが良いと考えています。
もちろん女性や子どもだけではなく、高齢者や、障害を持っている方、男性だって電気、上下水道、ガスなどのインフラが停止した寒くて暑い体育館ではなく、ホテルやアパートで落ち着いて生活を整える方が良いでしょう。


先日発生した能登半島地震では政府が率先して二次避難を呼びかけています。


もちろん避難するための道路が死んでいる場合もありますが、食料や物資を運べるレベルまで回復したのなら、人の方を運んでしまった方が良いケースもあると思います。

あなたはわたし

ペーパー・サンクチュアリ展は大分県立美術館1Fアクアリウムにて2月4日まで開催中です。


本展示は2023年6月にロンドン・ピエンナーレにて展示されたものを日本語訳したもので、今後も日本国内を巡回する予定とのこと。


現在イスラエルによるガザへの報復と称した虐殺が行われている中、ウクライナに対する関心が薄れているとも言われています。
日本メディアではどちらの戦争報道も減り、呑気にメジャーリーガーのペットについての報道をしていたりもします。


ぜひウクライナの方々が紡いだ詩に触れ、その傷に思いをはせてみてください。

開催期間2024年1月13日(土)〜2月4日(日)
開館時間午前10時〜19時
金・土曜日は20時まで
(入館は閉館の30分前まで)
休展日なし
観覧料無料
HP大分県立美術館https://www.opam.jp/
Instagramhttps://www.instagram.com/oitabambooartandlightstakee/
駐車場有(詳しくは大分県立美術館のホームページまで)

-アート
-

執筆者:


comment

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です

関連記事

【大分市】大分路上観察学会「oita 超/芸術 city 2022」【感想】

大分市竹町商店街の一角で、滋味深い展覧会が開かれています。タイトルは「oita 超/芸術 city 2022」。大分路上観察学会の活動報告にあたる展覧会だそうです。大分路上観察学会のFacebookは …

【大分県立美術館】佐藤雅晴 尾行 存在の不在/不在の存在展 【感想】

この記事は大分県立美術館で2021年5月15日~6月27日まで開催されていた「佐藤雅晴 尾行 存在の不在/不在の存在展」の感想記事です。 同時期に大分で開催されているMINIATURE LIFE展とは …

【別府市】書肆ゲンシシャ【行ってみた】

センシティブな内容を含みます。閲覧にはご注意ください。 「書肆(ショシ)ゲンシシャ」。大分県別府市にあるそのお店は、まさに「驚異の陳列室」。人骨を使用した楽器や、人の皮を装丁に使用した本、戦時中に製造 …

【大分県立美術館】コシノジュンコ 原点から現点【感想】

世界的ファッションデザイナー、コシノジュンコ。世界を舞台に活躍する氏の、大規模展覧会が大分県立美術館で開催されています。なぜ最も九州で人口の多い福岡ではなく、大分での開催なのか。それは、こちらも世界を …

【大分県立美術館】WHO ARE WE 観察と発見の生物学展を通してみる学術分野の未来【感想】

WHO ARE WE(私たちは誰なのか)。2021年7月22日より大分県立美術館で開催中の、観察と発見の生物学展。眺めているだけでもなんとなく楽しい美術作品の展覧会と違い、正統な学術系の展示はむずかし …

ブログ村バナー

ゆずと申します。
大分市在住です。
趣味は食べること、カフェ巡り。

Amazonのアソシエイトとして、当メディアは適格販売により収入を得ています。