アート 考える

何故アートは「高尚なモノ」になってしまうのか?

投稿日:2022年12月11日 更新日:

「美術館や博物館に足を運んでもらうためには、どうしたらいいですかね?」


先日美術館を訪れた際、職員の方に求められたアンケートに答えていると、そのようなストレートな質問を受けました。


また先月大分市で開催されていたアートイベントのシンポジウムでも、アートは高尚なモノだと敬遠され、興味を持ってもらえない・・というような嘆きが話題になっていました。


さて、その「高尚さ」の正体って何なのでしょう?


そして何故高尚なモノ」は敬遠されてしまうのでしょうか?


アンケートの場では上手く答えることができなかった質問。


いつもながら勝手に考察してみます。

そもそも「高尚」ってなんなんだ

【高尚】

俗っぽくなく、程度の高いこと。
学問、技芸、言行などの程度が高く上品なこと。けだかくてりっぱなこと。また、そのさま。

goo国語辞書によると、上記のような意味を持つ「高尚」ということば。


「高尚な趣味」といえば、やはり一般の多くの人からは壁があるような、住む世界が違うような、そのようなイメージが伝わってくると思います。


それでは、何故多くの人はそのような壁を、アートに感じてしまうのでしょうか。

「高尚さ」の正体 ① 分かりにくさ

アートに「高尚さ」、いわゆる壁を感じてしまう原因のひとつは、シンプルに分かりにくいことだと思います。


アートとは、表現する人や鑑賞者が自由に感情を抱くものです。


製作者が強い意思を持って「こう!」と考えて作品を作る場合もあれば、ただなんとなく「この形や色が良いんだよね〜」で仕上がる作品もあります。


言い換えれば、簡単に定義できない・・それがアートなのです。


そして、「判別できない、理解しにくいモノ」が苦手なヒトは多いです。


「分からないこと」に、「分かりたい」という欲求や、「面白さ」を感じるタイプのヒトも、もちろんいます。


しかし、将来役に立ちそうにもない微分・積分の授業を延々と教室に座して聞かなければならなかった学生時代のように、ヒトは理解できないモノに相対することに苦痛を感じてしまうのです。


美術館側でも、展示作品の解説イベントなどが適宜行われてはいますが、、、それってつまり解説がなければ魅力が伝わりにくい作品が多いということです。


それ故、誰がどう見ても「分かりやすい」モノは受けます。


例えばバンクシーの作品はテーマ・構図・メッセージともに非常に分かりやすいです。

もちろんバンクシー自体のブランディングの巧みさ、プロモーションの腕などもありますが、現在世界で最も著名なアーティストの一人であることは間違いないでしょう。

関連記事:【WITH HARAJUKU】バンクシー展 天才か反逆者か【感想】

「高尚さ」の正体 ② 金のニオイがしない

先程述べたバンクシーの作品は高値で取引きされているのはご承知の通りです。


高値で落札される度にニュースで話題になるので、普段アートに興味が無い、という方でも「バンクシー」の名前だけは聞いたことがある、という方もいらっしゃると思います。


正直「え?これが○○億円・・・!?」という感想を抱いた方もいらっしゃるはず。


値段は、アートを観た時に分かりやすい指標となります。


骨の髄まで、そしてどんな世界の果てまでも(共産主義圏を除く)資本主義が染み渡った現代。


良さが分からなくとも、「この値段が付いているのなら価値があるのだろう」とヒトは判断します。


しかし、すでに著名なアーティストや、贋作が作成されてしまうほど有名な作品ではない、特に現代アートのような展覧会ではその価値の判断を自分で下さなくてはなりません。


また、重要文化財(国宝)の展覧会でも値段という分かりやすい指標がない為、退屈に感じるヒトもいるでしょう。


値段が付けられない程価値がある、ではなく、資本主義の蔓延した世俗から切り離されている印象を受けるのです。


その金のニオイの無さこそが、芸術というものは、けだかく、りっぱなものである、という高尚さの正体だと思います。



しかし、その高尚であるというイメージがメリットになっている点もあります。

「高尚」であることのメリット ① 公金が投入されやすい

美術的・歴史的価値のあるものや、文化財などは保護・研究するという目的もあって美術館や博物館に収蔵されています。


そして個人や企業が運営する施設もありますが、多くは国や県、市などの自治体が運営を行っています。


これは地方自治体の運営方針によっても違いがあるかと思いますが、私が住んでいる大分県の場合、中学生以下はほとんどの企画展を無料で観ることができます。


また全国各地域で開催されるアートイベントでは町おこしの意味合いもあるので、アーティストの作品を無料で楽しめることが多いです。


アーティストだってボランティアで作品制作を行っているわけではありませんから、そういうイベントの報酬・運営には多かれ少なかれ公金が投入されています。


議論を呼びましたが、鳥取県では県立美術館がアンディー・ウォーホルの作品を3億円で購入したというニュースもありました。
https://www.nhk.or.jp/politics/articles/feature/91559.html


アートに興味のない人からしてみればそんなゆとりがあるのなら給付金や減税をしてほしい、となるかもしれませんが、一回で終わりの給付金や減税よりも、教育や文化、観光資源への未来投資となる公金の使い道だったのではないかと考えます。

「高尚」であることのメリット ② 教育に良いという勘違いを生む

「高尚さ」の正体のひとつは、お金のニオイがしないことであると私は考えています。


そしてそのお金との無縁な清らかさは、低俗な娯楽ではない=子供の情操教育に良いのではないか、とのポジティブな勘違いを生んでくれると思います。


目の前にある作品の正体が何か分からなくても、とりあえずデカいモニュメントがあると楽しくなってしまう、はしゃいでしまうのが子供たちの素敵な感性のなせる技です。


同じような理由で動物園や水族館を選ぶこともありますが、美術館や博物館はそれらの施設に比べて費用が低く抑えられることも多いし、トイレなどの設備も綺麗で充実しています。


子育て世帯はより多くのお金を必要とするので、お金をかけずに学びを得られる・・美術館や博物館はそういった面もアピールしていくべきだと思います。

得意だけど辞めてしまうのは、稼げるイメージがないから

幼稚園や小学生のころ、図画工作の時間が大好きでした。


色塗りも好きだったし、粘土も版画も、水彩画も・・毎時間楽しみにしていたのを覚えています。


もちろん他に音楽、歌を歌うことが得意だったり、リズム感が良かったり、運動が得意な子が居たり・・・子どもたちは様々な特性を持っています。


学年が上がると何故か図工の時間が減り、物足りない私のノートに落書きが増えました。


いつしか「得意で、好きだったこと」は取り上げられて、親や教師から「そんなことよりも勉強や宿題をしなさい」と言われる子どもたち。


「そんなこと」とは「意味のないこと」です。


「意味のないこと」とは「お金を稼ぐ可能性の低いこと」です。


そして親ならば、自分の子供には食いっぱぐれないように育ってほしいと願うもの。


極論ではありますが、楽しく絵を描くよりも、数学の問題をひとつでも多く解けた方が安定した職業に就ける可能性は高いです。


それは、アーティストに「稼げる」イメージが無いからだと思います



もちろんバンクシーや、日本人で言えば村上隆さんのように、億を稼げるような著名になれるアーティストはほんの一握りです。


しかし現代では、「ちゃんと勉強して大学を出て、一生同じ企業に勤めて安定した生活を送る」という価値観が崩壊しています。


むしろ、自分の好きなことや得意なことで「稼ぐ」you tube やInstagramがこんなに流行っているのも、個人の価値観を大事にしようという現れだと感じます。


先日大分市で開催されていた「回遊劇場 AFTER」でも様々なアーティストが参加されており、中にはbarやレストランを営業しながら活動をされていたり、サラリーマンを辞めてアーティストになりその後美術教師と二足のわらじを履いている方もいました。


積極的にオンラインサイトで自分たちの作品を販売しているアーティストも。


サイトをちょっと覗いたのですが、ほぼ作品がsold out状態だったのは良い衝撃でした。


バンクシーのように、ひとつの作品に〇〇億円の価値がつかなくても、きちんと地に足をつけていらっしゃるアーティストはたくさんいます。


むしろ、そういう「稼いでいる」状態を見せていくことでアートの場はどんどん活性化するのではないでしょうか。


絵が得意だけど、彫刻が好きだけど、スーパーお金持ちにはなれないかもしれないけど、食べてはいけそう。


そういう、資本主義に少し片足を突っ込むくらいの姿勢を、アートを運営する側も見せて行くべきです。


アートの場に人を呼ぶためには

先日美術館職員の方に受けた「美術館や博物館に足を運んでもらうためには、どうしたらいいか?」という質問。


美術館や博物館、そしてその場所で開催された企画展の一番わかり易い数値目標は、「来館者数」です。


ただ単に来館者数を増やすのが目的であれば、企画展のCMを流せば、家でテレビを見ている高齢者層やファミリーに認知してもらうことができるでしょう。


アートにそもそも興味が無いという方に向けては、歩行者天国や、グルメイベントなどで「何か楽しそうなことが起きているぞ」と思わせることが有効だと思います。


また、自分が「面白い・面白くない」「良い・悪い」の判断をしなくてもよい、「すでに有名なアーティスト」の作品展や「テーマのはっきりした」企画展は分かりやすいので来館者する人が増えます。


しかし、片手に収まるスマートフォンひとつで多種多彩な娯楽にアクセスできる時代。


アート鑑賞はお高くとまった限られた人たちだけの趣味、ではなく多くの人が楽しめる「エンターテイメント」のひとつとして選択肢に入らなければなりません。


幸い今はそれこそInstagramやTwitter、you tube などいろんなチャネルで自分の作品を発表する機会があります。


中・長期的な目標を掲げて、アーティストとは「稼げる」職業である、もしくは兼業でも続けたい活動であるというような目線を子どもたちに持ってもらうことが何より大事なのではないかと思います。

関連記事:美術館ってそんなにバリアフリーじゃない

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