アート

【中津市歴史博物館】戦争の記憶展【感想】

投稿日:2024年8月14日 更新日:

太平洋戦争が1945年8月15日に終戦を迎えて今年で79年。


日本国内にはすでに先の大戦を体験した世代のほうが少なく、しかし今や世界では戦禍の嘆きが耐えません。日本に住む私達は、幸運にも砲弾の雨にさらされていないだけの状態です。


市民から寄贈された資料をもとに戦争の記憶を伝える本展では、まさに市民の目線で当時の状況を伝えてくれます。戦争、ひいては平和について考える一助となることでしょう。


また本展はすべて写真撮影がOKとなっています。

太平洋戦争と中津市民

本展「戦争の記憶展」は常設展示の1室に設けられたミニ展示なので、そんなに資料や読み物が豊富というわけではありません。しかし、中津市民より寄贈された戦争に関する資料はなまなましさを放っており、没入感がありました。

アメリカ軍が使用していた銃の薬莢。
落ちている薬莢は鉄くずとして換金されることも多く、拾い集めた薬莢に引火して死傷者の出る事故も起こったそうです。

この資料だけで戦争当時の日本の物資の無さ、ひもじさ・・・そしてそれを市民に強いる日本軍の無恥さが伝わってくるようです。

「学徒開墾」とあることから、クワをふるって土を耕しているのは当時の女学生でしょう。

男子学生が竹刀や竹槍での戦闘訓練を行っている写真。もちろん男子だけでなく、女学生も薙刀での戦闘訓練を行っていた写真も他展示会で見たことがあります。

戦闘員であろうが、子どもであろうが、のべつ幕なしに殺し合いに引きずり込まれる。それが戦争のおぞましさです。

中津市のシンボルともいえる八面山にある平和公園。

1945年5月7日、米軍機B29が日本軍戦闘機の突撃を受け日米合わせて12名の搭乗員が死亡しました。
八面山平和公園は世界平和と慰霊を祈念して1965年に整備されました。
終戦まであと約3ヶ月。なんともやるせない気持ちが込み上がってきます。

消火器と書いてあるのは、中に消火剤が入っており、空襲などで家屋が火災になった際、そのまま瓶を投げ入れて消火活動を行うアイテムだそうです。
左の笠のようなものは、灯火管制下で電灯にかぶせて使用するアイテム。


右上のランドセルはなんと紙製だそうです!通常のランドセルに使用する革や木綿まで不足しており、一般国民には手が届かなくなっていたために紙で作られたそう。な、なんというか・・・。
豊田国民学校(豊田小学校)の生徒さんが使っていたそうです。


他にも当時中津に作られた神戸製鋼の軍需工場の写真や、建物疎開といって空襲標的にされやすい大きな建築物を引き倒した記録も見ることができ、見識が広がる展示でした。

加害者としての戦争の記憶

本展は当時の中津市民の目線に寄り添って、戦争の悲惨さを知り、平和へと心を寄せることを目的としています。


夏になると目にする太平洋戦争を取り扱ったコンテンツ(展示会、ドキュメンタリー番組や、映画など)全般に言えることですが、その中で日本が加害者であるという史実を伝える情報はどのくらいあるのでしょうか。


太平洋戦争は、日本が真珠湾攻撃をしかけることで始まった、それも国民の圧倒的な支持を受けて開戦が決まった戦争です。もちろん、ナショナリズムを煽り、プロパガンダを挙国一致で行っていたメディアにも責任があります。


アジアの人々の生活、命、尊厳を踏みにじった記憶と記録。


日本国民は悲惨な目にあった。けれどアジアの人たちに日本はそれ以上の悲惨な、残酷なことをしたのです。


本展でもメインは中津市民の生活のひもじさや、学徒動員のやるせなさ、砲弾の恐ろしさについて主眼が置かれていました。


戦争は必ず忌避すべきです。
それはもちろん悲惨な生活に、むごたらしい死に遭わないためです。
しかし、二度と誰かを酷たらしめることのないようにするためでもあります。


人が人間であり続けるためには、平和が必要なのです。

戦争の記憶展 概要

戦争の記憶展は中津市歴史博物館にて9月29日(日)まで開催中です。


地元の方より寄せられた貴重な資料とともに平和へと心を寄せることができる展示会です。ぜひ訪れてみてください。

開催期間2024年8/1(木)〜9/29(日)
開館時間9:00〜17:00<入館は16:30まで>
休館日月曜日(祝日の場合は翌日)
観覧料一般        300円
中学生以下・身体障害者手帳・療育手帳・精神障害者保健福祉手帳掲示者とその介護者 無料
駐車場有(無料、22台)
HPhttp://nakahaku.jp/

関連記事:【大分県立美術館】「くらしにみる昭和の時代 大分展」/「戦傷病者の労苦を伝える 大分展」/「平和祈念展 in 大分」【感想】

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