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【大分市美術館】おおいたの「推し」の建築展 磯崎新と大分のまちづくり【感想】

投稿日:2023年10月27日 更新日:

2022年12月28日、大分市出身で世界的建築家の磯崎新氏が逝去されました。
磯崎氏はその50年以上に及ぶキャリアの中で、建築界のノーベル賞とも言われるプリツカー賞も受賞されています。


大分市内には氏が設計、建築に携わった建造物がいくつか現存しており、特にアートプラザは文化やアートの交流地点として活用されています。
大分だけではなく国内外を問わず活動されていた氏ですが、キャリア後半、2000年代に入ってからは海外でのご活躍が多かったようです。(詳しくは磯崎新氏のウィキペディアをご覧ください)


本展覧会は、そんな磯崎氏が大分という街に建築を通して与えた影響や足跡、主催でもある大分県建築士会の活動や彼らが「推す」建築について語ったもの。


建築関係で働いている方も、将来建築関係に進みたいと考えている方も、純粋に建造物が好きな方も、全くたてものに興味のない私のような方にも写真等で分かりやすく展示がされていました。



会場は5部構成

おおいたの「推し」の建築展は全部で5部の構成となっています。

「ARTPLAZA けんちくキッズフォトコンテスト作品展」
「磯崎新と大分市」
「オシカツ(推しの建築活動)」
「オシホン(推しの書籍)」
「オシケン(推しの建築)」

受付を終えると、画像のシール(オシール)を渡されます。
会場をめぐり「ええやん」と感じたコーナーやパネルにシールを貼っていく、ちょっとした参加型鑑賞となっています。

会場内の写真は(一部を除き)写真撮影OK、SNSへのアップOKだそうです。

「ARTPLAZA けんちくキッズフォトコンテスト作品展」

磯崎氏が建築した大分県立大分図書館。その図書館をリニューアルしたものが大分市中心部に位置するアートプラザです。

この特徴的なゴリゴリした建物を、子どもたちが一眼レフを使って思い思いに撮影した作品展です(上記の写真は私が撮影したものです)。

下から撮影したり、アートプラザの中の部屋を印象的に捉えた作品も。写真のタイトルも子どもたちが考えたのか、おお!と見入ってしまうモノもありました。

「磯崎新と大分市」

こちらのコーナーでは、磯崎氏が発表した「県都コア構想」についての説明、模型展示などが行われています。

一言でまとめると、大分駅周辺(パルコ撤退にともなう)の再開発ですね。
現在は「祝祭の広場」として生まれ変わっているあの部分を含めた都市計画のようです。

ただ「県都コア構想」では、本展覧会の会場になっている大分市美術館がある上野の森を中心とした南側エリアと、大分城址公園を中心とした北側エリアの2つの文化的な地域まで含めて見通すべき、となっており上記の写真はその構想を模型にしたものです。


現状は相変わらず駅周辺だけが騒がしい感じなので、ここらへんは大分の課題と言えるでしょう。

ヤフコメでは結構ボロカスに叩かれている「祝祭の広場」ですが、受賞歴があったようです。
まぁ、もちろん何らかの賞を取ったからといって、それがあれば免罪符になるというわけではありません。


建築にかかった費用、年間にかかる運営管理費用などはペイできるのか。
再開発の指標としてよく挙げられる、人々の流動性やにぎわい創出として本当に効果があったのか。


ご存知のとおり、公共施設や道路は建築にかかる費用は国からの税金で賄われることが多いですが、その後の管理・運営は地方自治体が主となります。きちんと活用され、運営費用を賄えなければ年間何億円もの赤字を市民の税金で補填することになるのです。

俗に言う「ハコモノ・道路はもう要らない」と言われる理由はこの辺にあります。

コーナーの半分は、約60年にも及ぶ大分駅周辺の移り変わりを展示してありました。


上記の写真は20年前、2003年頃の大分駅(南口)の姿を捉えたものです。
県庁所在地感ゼロ、まるで離島に来たのかな?みたいな雰囲気がなんとも言えないですね。


下記写真のような現在の大分駅の姿しか知らない人にとっては新鮮。面白かったです。

「オシカツ(推しの建築活動)」

ここからは主に大分県建築士会がメインテーマになります。


まず大分県建築士会が取り組んでいる地域貢献活動について。
建築士会は大分県内に14支部あり、会員は1000名を超えています。
地域ごとに歴史のある建造物の保全に取り組んだり、空間づくり、街づくりなどを行っているようです。


下記の写真は木製のベンチと、移動式の小上がりです。
大分支部しきどプロジェクトのワークショップで地域の皆さんを巻き込んで制作したとのこと。


実際に座ってOKなので、会場を訪れた方はぜひ座り心地を確かめてみてください。
どちらもどっしりとしており、良い座り心地でした。特に小上がりは畳なので、それだけでちょっと嬉しくなりますね。


街中は発展に伴ってベンチなどが取り払われる傾向にあり、お金を払わないと休憩が出来ない、みたいなことがよく起こります。
(足が疲れて座りたいけど座る場所がないので、カフェなどの飲食店に入る。さらに酷いとそのお店も激混みしていて席がない、という状況)

別府駅周辺はすでにそのような状態らしいので、ぜひ支部を超えていい感じのベンチを作って観光客にも優しい街づくりをしてほしいですね。

「オシホン(推しの書籍)」

こちらのコーナーでは、磯崎氏の著書と、建築士会のメンバーそれぞれのオススメ本が並べられています。

上記は磯崎氏の著作物の一部です。閲覧は出来ないのですが、パッと表紙を眺めているだけでもその冊数の多さ、ジャンルの幅広さに驚きます。


また、磯崎氏はご自身の所有されていた約18,000冊もの本を大分市に寄贈されています。
アートプラザの3F磯崎新建築展示室では、実際にその本の一部を目にすることができます。(現在は新型コロナウイルスの影響もあり、閲覧はできません)

一方建築士の愛読書が並べられているこちらは、自由に手にとって閲覧してOK。(書籍の中身を撮影することはもちろん禁止です)


近くにソファも設置されているので、気になった本を座ってじっくりと読み込むことも可能。
図書館や本屋では取り扱っていないだろう専門的な本や、世界各国の建築物を撮影した目にも楽しい本、アートや美術系の本もありました。

「オシケン(推しの建築)」

最後のコーナーはプロの建築士が「推す」大分県内の建築物の展示が行われています。

建築物の写真パネルとともに、ざっくりとした位置関係も示されているので、なんとなく頭で思い浮かべながら観るのも楽しいです。

私が「ええやん」と思ったのは大分市内某所にあるこちら「houseN」。

スタイリッシュ&風通しが良さそうな造りがまるでデザイン事務所かおしゃれな会員制ショップのようですが、なんと個人向け住宅なんだとか。格好良すぎ。

50点ほど「推し」建築が並べられているので、ぜひお気に入りを見つけてください。

めちゃめちゃ(税)金のかかった文化祭

ここからは本展覧会全体を通しての感想になります。


本展は全部で5部構成となっているのですが、全体的に情報量が多いと感じました。

コーナーごとにパネル展示や、文字での説明、模型も準備されており建築に詳しくない私にもわかりやすいような工夫がされています。が、いかんせん量が多い。

おそらくこれでも情報を絞ったのでしょうが、パネルの文字も小さいので「読ませる」ような展示にはなっていません。


また、テーマ性が一貫していない印象も受けます。

下記はOBSオンラインで配信された推しの建築展に関するニュースのサムネイル画像です。

記事タイトルに採用されているのはやはり「磯崎新」氏。
この画像とタイトルだけ見れば、まるで磯崎氏の回顧展や追悼展のような印象を受けます。

が、実際の展示内容的には磯崎氏に関する展示は全体の1/5程度。残りのほとんどは大分県建築士会の活動に関するものとなっています。

展覧会のポスター的には、一番大きなタイトルは「推し」の建築展で磯崎氏の名前はオマケのようなサイズです。どちらかというとメディアの切り取り方に問題があるように感じます。

しかし、メディアとしては記事を目にしてもらいやすい「世界的建築家・磯崎新」を見出しに持ってくるのは当然と言えるでしょう。

訪れる人も「磯崎新」氏の功績を辿る・・と思っていたらなんだか違った・・みたくなるのではないでしょうか?


磯崎新氏の功績を称え、追悼したいのか。
大分の街づくりに関して過去を通して未来へと思いを馳せてほしいのか。
大分県建築士会の活動報告を通して、その存在を認知・応援してほしいのか。
それとも、多くの人に「建築」というジャンルに興味を持ってほしいのか。


結局何が一番伝えたいテーマなのかが分からないのです。
(「ARTPLAZA けんちくキッズフォトコンテスト作品展」は唯一どのテーマにも親和性が高いコーナーでした)


全部なのかもしませんが、それならば展示自体に一貫性か、ストーリー性を持たせないと観覧する方はキツいです。特に「建造物」や「街づくり」そのものに興味がない人だとなおさらキツい。


人間はストーリー理解をしやすい生物です。
写真や模型で分かりやすく展示していても、情報を並べただけならば頭に残りません。


個人的には、宇佐市にある大分県立歴史博物館の企画展は毎度物量と情報量の多さに尻込みするくらいなのですが、展示のストーリー展開が上手く、記憶と心に残る展示だと思っています。

関連記事:【宇佐市・大分県立歴史博物館】大正ノスタルジア【感想】


全体を通してみると、ちょっともったいないなかったかな、という感想です。

おおいたの「推し」の建築展 磯崎新と大分のまちづくり 概要

おおいたの「推し」の建築展 磯崎新と大分のまちづくり展は2023年11月19日(日)まで大分市美術館で開催中です。


休展日もあり、開催期間もおよそ1ヶ月と長くないのでお見逃しなく。

開館時間10:00〜18:00<入館は17:30まで>
休館日10/23(月)、10/30(火)、11/7(火)、11/13(月)
観覧料無料
HPhttps://www.instagram.com/oita_oshinokenchiku/
駐車場有(無料、約130台)
備考大分駅からワンコイン(100円)で乗れる周遊バス運行中
詳しくはこちら(大分市のHPへジャンプします)



関連記事:【大分市美術館】レストラン いろのわ

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