
アートプラザ大分で開催されていた上堀内駿氏による個展『People die soon.But We can’t kill art.』。
(上堀内氏のInstagramのアカウントはこちらから)
開催期間は終わっていますが、個人的な感想メモとして記事に書き残しておこうと思います。
記録として残しておきたい、そのくらい良いパンチを喰らった個展でした。
観覧時間が定められている不親切設計

会場出入り口付近に置かれているテーブルの上には、砂時計が設置されています。
観覧する人は入場する際に必ずその砂時計の中から一つを選び、その砂が落ちきるまでの間しか観覧ができないというルールが定められています。
しかも写真を見てお分かりかと思いますが、それぞれ砂時計の秒数が違います。
最長のモノで10分間、最短のものだと10秒。
私はなんとなく選んだ砂時計がたまたま10分でラッキーだったのですが、選んでからそれぞれ秒数が違うことに気が付きました、笑。しかも選び直しは禁止だそうです。
なんという不親切設計。
作品をたっぷりとゆっくりとご覧になってくださいstyleの個展が多い中、これは最初からアッパーを喰らった感があります。
作家の死生観が空間に満ちたインスタレーション

のっけから掲げられている文章には「人はすぐに死ぬ だが芸術は殺してはいけない」のタイトル通り、人生観と芸術に関して綴られています。
他にも壁や床にまで言葉や文章が綴られた紙が散りばめられているのですが、じっくりと立ち止まって読む暇などありません。なんせ私に与えられた時間はたかだか10分間。
いつもタイパだのコスパだのに気を取られ、5秒経過で出現するはずのYou TubeのCMのスキップボタンを今か今かと凝視し、ポッドキャストはもちろん映像作品の総時間数まで確かめる日常。
「時間が可視化される」ことに慣れているつもりでも、それが自分に与えられた残り時間となればやはり話は別。めちゃくちゃ勝手に焦りました。


立ち止まって目にすれば考えずにはいられず、かといってすべての文章を読むことなんて当然できもしない。けれどその一端に触れて考えることこそが面白い。
世界観と情報量の渦に飲み込まれまいと必死にさまよっているうちにあっという間に10分間が過ぎ去っていました。
やんわりとした拒絶と心地よさ

最初の砂時計から始まり、不親切で理不尽なアクションが満載の美術展。
とても素晴らしかったです。
私達は、あらかじめどのくらい生きることができるのか、どのような人生を歩むのか、幸や不幸はどのくらいか、そんなこと当然知らされずに生まれて来て、立ち止まって考えることもなく流され、おそらく振り返ることもなく死んでいきます。
不親切で理不尽な仕掛け満載で選び直しもできない。
降り積もる砂を確かめつつ、作品を観覧をしている最中ずっと「でも人生ってそんなもんでしょ?」と横っ面を殴られているような感覚を覚えました。
人間にとって死とは何か?では芸術にとっての死とは何か?
たったの10分間で作家の死生観や芸術性のすべてを理解しようとすることなどおこがましいことでしょう。
せいぜい引っ張り出されて眼前に付きつきられた、自分自身の死生観や芸術への感心を反芻することくらいしかできません。
タイトルど直球であり、ただただ作家の感性でぶっ飛ばされたような、胸のすくような個展でした。
またどこかの展覧会で、この方の作品や世界観に触れられる機会に恵まれることを願っています。