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【中津市歴史博物館】岩石の王国【感想】

投稿日:2023年2月8日 更新日:

「岩石の王国」


作家・田山花袋と洋画家・小杉放菴は自身らが手掛けた「耶馬溪紀行」の中で名勝・耶馬渓の風景をそのように言い表しています。


耶馬渓は1923年に国名勝に指定され、今年でちょうど100年目を迎えます。


夏目漱石、森鴎外、川端康成など多くの文豪たちを魅了したという国名勝・耶馬渓。


もちろん、ただ景色が良いから、という理由だけで国名勝に選ばれたわけではありません。


今回の展覧会は、「なぜ耶馬渓は国名勝になったのか?」という謎を解き明かしつつ、歴史の偉人たちと旅をしているような感覚になれる、そんなブラタモリ的な楽しい特別展です。

「岩石の王国」展

本展覧会はほとんどの資料が撮影OKとなっています。(一部撮影禁止の展示物あり)

入り口を入ってすぐのところにワークシートが置いてあります。

完成させると出口でちょっとしたプレゼントがもらえます。


本展覧会は、観覧料(300円)の割には情報量がとても多いので、ワークシートを使ったほうが逆に情報の整理、理解がしやすいでしょう。

イラストもカワイイので、ぜひご参加をおすすめします。

解き方は、展示を見て名前と吹き出しのセリフを書き込んでいくだけなので簡単。9人分あるけど。こんなに長時間鉛筆を握っていたのは久しぶりです。

展示スペースの様子はこんな感じ。


文字ベースの資料だけでなく、展示物や写真も多いので、飽きずに観覧することができます。


また一部掲示の位置が高いですが、ほとんどは低めなので、子供さんや車椅子の方でも利用しやすいと思います。

好きな人にはめっちゃ刺さりそうな展示物も。耶馬渓線は1975年に廃止になったので、年代ものです。

耶馬渓はなぜ国名勝になったのか

「耶馬渓はなぜ国名勝になったのか」


その謎を解くには、江戸時代後期までさかのぼらなければいけません。


はじまりは1818年(文政元年)、日田から中津への道中で観た渓谷の美しさに賞嘆した当時の歴史家・思想家である頼山陽
耶馬渓図巻を著し、「耶馬溪山天下無」という歌を添えたところから山国谷は耶馬渓と呼ばれるようになりました。


次に明治を代表する啓蒙思想家・教育者の福沢諭吉がその私財を投じ、明治期に起こった開発の波に飲まれそうになっていた故郷・耶馬渓の土地を購入することで保全活動につなげていきます。


広島出身の漢学者・小野桜山は、耶馬渓を気に入り定住。耶馬渓地域の文化の発展、保護、教育に寄与しました。
また景観の保全を訴え、耶馬渓保勝会を設立。


・・・とネタバレになるためすべては書き記しませんが、合計9人のおじさんたちがバトンリレーのように耶馬渓の保全、ひいては観光において深く関わってきたのだそうです。


国名勝に指定されたのは1923年ですが、それまでに交通の要所となる耶馬渓道路を開通(1891年)したり、材木・旅客の輸送を目的とした耶馬渓鉄道の創立(1913年)、景観上欠かせない観光道路となった日本最長を誇る石橋の架橋(同年)。


これらの長年にわたる先人たちの積み重ねの努力を経て、実業之日本社が出版した「婦人世界」の読者投票で見事「日本新三景」に選ばれます(1916年)。


そして1923年、満を持して国名勝・耶馬渓の誕生となったのです。


また、一番始めに記した田山花袋・小杉放菴コンビによる「耶馬溪紀行」も実業之日本社によるタイアップ宣伝旅行記です(1927年出版)。


動画などまだまだ存在せず、写真も一般的ではない時代、挿絵付きの旅行記は多くの人々の冒険心や好奇心をくすぐったことでしょう。

観光政策についてちょっと考えてみる

国名勝・耶馬渓の成り立ちをワークシートとともに追いかけた今回の特別展。


恥ずかしながら初めて知ることばかりでとても勉強になりました。


また9人のおじさんは、ほとんどが民間人。

ある時は私財を投じ、矢面に立ちながらも必死に資金繰りを行い、耶馬渓観光という事業を運営していました。


日本政府が自ら観光立国を目指し、あっちもこっちも地方創生、税金・補助金パラダイスの現代から100年前の「観光政策」という事業を俯瞰すると大変興味深い。


民間の出版社・実業之日本社が仕掛けた「日本新三景」も「耶馬溪紀行」も、現代では国や地方自治体がユーチューバーやインフルエンサーにお金を支払っていい感じのそれっぽい動画を撮影、投稿してもらっています。


どちらが良いとか悪いとかの話ではありません。


しかし、企画が失敗した場合資金の回収が困難、または自分の文筆家や画家としてのキャリアに影響が出る、という大きなリスクがある100年前の政策と、国(または地方自治体)と税金がケツ持ちする現代の政策ではどうしたって気合の入り方は違ってくるでしょう。


また展示されている資料で笑ってしまったのが、耶馬渓道路も耶馬渓鉄道もその都度しっかり政治家による邪魔が入っていたこと。


9人のおじメンの一人で耶馬渓道路開通に尽力した村上田長は、玖珠郡長でありながら道路建設費用の件で揉め、他の群議会委員から罷免までされています。


うーん・・「機運が高まった時に政治家がなんか邪魔しちゃいがち」の構図は、100年前も、そして今でも変わっていないようです。

ジオラマもある!

中津市歴史博物館のギャラリースペースには、耶馬渓鉄道のジオラマが展示されています。


鉄道ジオラマ作家・川上哲生さんが今展覧会のために手掛けた作品です。
川上哲生さんのホームページ「鉄道少年舎」はこちらから↓
http://pony55.starfree.jp/intro.html

設置されているボタンを押している間のみ電車が動きます。

ボタンから手を離すと電車がストップするので、お好きな位置で停めて写真を撮りましょう。

関連イベント

岩石の王国展に関連してイベントが予定されています。

百年料亭サロン

国登録有形文化財である料亭・筑紫亭で、お茶を楽しみつつ、学芸員の方から文化財についてのお話が聞けるイベントです。
筑紫亭はなんとミシュラン(一つ星)を獲得しています。
創建当時の趣を残す建物で、優雅な時間をお過ごしください。

日時2月26日(日)15:30〜17:00
料金2,000円(菓子・特別展観覧券付)
定員15名(要予約、予約は中津市歴史博物館(tel0979-23-8615)まで)

スライドトーク

今展覧会の見どころについて、解説が聞けるイベントです。

日時2月11日(土・祝)、3月5日(日)10:00〜11:30
料金無料(予約不要)
会場中津市歴史博物館

岩石の王国展 概要

名勝耶馬渓指定100周年記念特別展「岩石の王国」−耶馬渓はなぜ国名勝になったのか−展は現在中津市歴史博物館にて3月12日(日)まで開催中です。


9人の偉人たちと耶馬渓を巡る旅。


ここではご紹介しきれなかった貴重な資料もたくさんあります。ぜひその目でご覧ください。

開催期間2023年 1/21(土)〜3/12(日)
開館時間9:00〜17:00<入館は16:30まで>
休館日月曜日
観覧料一般        300円
団体(20人以上) 100円
中学生以下・身体障害者手帳・療育手帳・精神障害者保健福祉手帳掲示者とその介護者 無料
駐車場有(無料、22台)
HPhttp://nakahaku.jp/
展覧会ホームページはこちら

関連記事:【宇佐市・大分県立歴史博物館】大正ノスタルジア【感想】

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