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【大分県立歴史博物館】「雑誌」で読み解く昭和の社会【感想】

投稿日:2023年11月19日 更新日:

皆さんには定期的に購読している雑誌はありますか?


最近ではどの週刊誌も雑誌も発行部数は右肩下がり。
というか読んではいるけどタブレットやweb派だよ、という方もいらっしゃるかもしれません。


私の子供の頃のお供雑誌は、月刊なかよし。他には週刊少年ジャンプなどでした。(つまり漫画ばっかり)


漫画や雑誌、週刊誌の内容は思いきりその当時の情勢を反映したものになりますし、事件報道などが掲載される場合もあります。


本展は、昭和時代に発行された雑誌を通して当時の社会情勢を読み解く企画展。


企画展といっても、広い博物館の中の一区画を使ったミニコーナーです。
これだけをお目当てに訪れるというよりは他展示を見るついでに立ち寄るといった感じがおすすめ。


下記は展示スペースの全景です。

展示されている資料もわずか19点。
昭和前半〜中盤までの世相が凝縮されたものが展示されています。

雑誌を読むのは市井の人々ですから、展示を見る私たちにとっても非常にシンクロしやすいと言えるでしょう。



タイトルパネル

上記は本展のポスターにも採用されている、昭和31年(1956年)発行の月刊雑誌「少年」7月号。
表紙は鉄人28号と書いてありますが、ちょっと見覚えのないイメージですね。

ウィキペディアによると、当初鉄人は悪の権化で、その鉄人は溶鉱炉に落ちて死ぬ、という結末だったそう。しかし読者アンケートの結果が良く、短期連載の予定が編集部の意向もあり長期に変更。当初登場していたロボットは鉄人27号となり、後に28号(上記の青いロボット)が正義のロボットとして活躍することになったそうです。

漫画の内容、連載が読書アンケートというマーケティングによって変化していくシステムは昔から変わらないんですね。

コーナー① 人々の生活と雑誌

こちらのコーナーでは、人々の教養・娯楽に関わる雑誌が展示されています。


現代とは違い、雑誌は新聞とともに重要な情報源でした。
上記はこども向けの科学雑誌「子供の科学」。
2023年現在も発行され続けているようで由緒ある雑誌ですね。


内容は当時新しく登場した「テレビ」について詳しく解説されたもの。「眼で視るラヂオ」という表現がなかなかオツですね。
昨今の、特に若い世代で「テレビ離れ」が起こっている現状を鑑みると、この100年間でいかに時代が変化しているのかを思い知らされます。

こちらは庶民の娯楽「歌舞伎」などを中心に演劇に関する記事を掲載した雑誌。
THE・浮世絵みたいな表紙が素敵。

写真もたくさんあって、眺めているだけでも楽しそうです。

コーナー② 雑誌といえば付録!

ちょっと前、雑誌の付録があまりにも豪華で話題になったことがありましたが、なんと昭和の雑誌も付録で勝負していたようです。

上記は大衆向け雑誌「キング」の付録。左から美顔水、ハーモニカ、養命酒、と記載してあります(表紙だけ見ると付録が付いているような印象が全くないのがまた面白い)。


昭和当時の発行部数の上位はやはり大衆向け雑誌の「キング」や婦人向け雑誌「主婦之友」で、次第に売り上げ競争が加熱した結果、豪華な付録で読者を獲得するという手段が取られるようになったそうです。


現代でも雑誌にポーチやバックが付いているのは珍しくないですし、雑誌以外でもキャラメルにおもちゃや、チョコウエハースにシールが付いていたこともありましたね。ここ数年はCDに握手券なども付いています。単純というか、なんというか・・・。


Aを売るためにBも付ける、という手法は割と昔からあるし、そして実際ある程度効果的なんでしょうね。

コーナー③ 雑誌と戦争

昭和の時代と切り離せないのが「戦争」です。


昭和6年(1931年)の満州事変、昭和12年(1937年)の日中戦争、そして昭和16年(1941年)の真珠湾攻撃によって始まった太平洋戦争。
上記の「科学朝日」はその太平洋戦争が始まる一月前、昭和16年11月に新たに刊行された雑誌です。

表紙、裏表紙(デンキを大切に お金の問題ではありません 勝ち抜くためです と書いてあります)からして戦争感バリバリですが、内容は当時の科学の最先端を伝える記事も載っており幅広かったそうです。

こちらは戦況が悪化していく最中の昭和18年(1943年)に発行された雑誌「婦人倶楽部」の裏表紙。


「僕、きつと兄さんの仇を討ちます」「女子挺身御奉公の時!」などと書かれた広告が掲載されています。このイラストのように、すでに父は亡く、まだ若い兄までも戦争に取られ、母と幼い子供だけが残されているご家庭も多かったことでしょう。


重要な情報源でもあった雑誌に掲載されている、感情に訴えかけてくる分かりやすいイラスト。今でこそプロパガンダだと分かるものの、当時はこのような形でも「お国のために」という気運が醸成されていったのでしょう。

トピック 「新女苑」〜少女でもない、主婦でもない女性〜

昭和12年(1937年)に創刊した「新女苑」。

それまでの女性向け雑誌が、「少女」と「主婦」に向けた内容しかないことに異を唱え刊行されました。
若い女性の教養を育むことを目的とした新女苑の内容は、文芸に力を入れていたそうです。表紙もモダンでおしゃれな印象を受けます。


子供を産む前の女性と、子供を産んで育て家庭に尽くす女性。


もちろん実態は違うのですが、社会的にその2パターンしか存在しなかったのが当時の「女性」なのでしょう。
戦後「新女苑」は休刊してしまうのですが、それでも男社会の中で働くほんのわずかな当時の女性たちが社会の階層にチャレンジした記録としても興味深いです。

コーナー④ 週刊誌と昭和30年代

最後のコーナーは昭和30年代の週刊誌。
上記は昭和33年(1958年)に発行された週刊新潮5月5日号。昭和天皇・香淳皇后両陛下が大分県の高崎山自然動物園を訪れた時の記事が掲載されています。


長く続いた戦争の時代も、ようやく昭和20年(1945年)のポツダム宣言受諾によって終わりを迎えました。
終戦直後は混乱期ですが、少しずつ社会の再建も進み、徐々に雑誌の発行も行われるように。

情報統制のなくなった雑誌の誌面に人々は心を躍らせたことでしょう。

政治の風刺漫画も誌面を飾るようになりました。

誌面から見えてくる世相、人、感情

昭和の時代に発行された雑誌たち。


特に戦前の雑誌は見覚えのないタイプのものが多く、非常に楽しく鑑賞することができました。
想像していたよりもカラフルで、写真もふんだんに掲載されていたのにも驚きました。


雑誌の付録が今と変わらずやたらと豪華なのには笑ってしまったし、婦人向け雑誌の内容が見合いの心得や料理のレシピ集や赤ちゃん用品特集ばかりなのも当時の状況が分かって(内心イライラしながら)興味深いと感じました。


しかし時代が進むにつれて誌面に戦争の影響が色濃く出るようになっていて、その雑誌の前に立っていると辛い気持ちがこみ上げてきます。
もし私がこの時代に生まれていたならば、きっと疑うこともなく日々の生活を送り、行動していたでしょう。


エンターテイメントの形で、それも感情を揺さぶる形で提供されるプロパガンダに、人々が気がつくのは容易ではありません。


昭和60年(1985年)生まれの私にとって、昭和は白黒の世界でありながら地続きでもあります。
その遠くてぼんやりとしていた印象が、実際に出版され市井の人々が楽しんでいた雑誌を通して少し鮮やかになった気がしています。


「雑誌」で読み解く昭和の社会 概要

特集展示 「雑誌」で読み解く昭和の社会は宇佐市の大分県立歴史博物館にて12月24日(日)まで開催中です。


昭和初期から戦後までの空気感がそのままパッケージされた香りの強い展示です。気になる方はぜひお立ち寄りください。

開催期間2023年9月26日(火)〜12月24日(日)
開館時間午前9時〜17時
(入館は閉館の30分前まで)
休館日月曜日
観覧料一般 310円
高大生160円
中学生以下・土曜日の高校生、障害者手帳掲示者とその介護者(1名)は無料
HP大分県立歴史博物館https://www.pref.oita.jp/site/rekishihakubutsukan/
展覧会に関するページ
https://www.pref.oita.jp/site/rekishihakubutsukan/zasshi-shouwa.html
Instagramhttps://www.instagram.com/rekihaku_oita/
駐車場有(150台、無料)



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