美人画。
それは、女性をモチーフに、美しい容姿、そして内面の感情の揺れさえも描き出すもの。
端的に言ってしまえば美人画とは、「男の目線」で描いた「女性ってこんな感じ」「こうであったらいいな」というジャンルです。
浮世絵師、喜多川歌麿の「寛政三美人」や、菱川師宣の「見返り美人図」などが有名ですし、明治から昭和初期に活躍した竹久夢二などは現代でも人気のある美人画家です。
今回の展覧会は第一章が培広庵(バイコウアン)コレクション、第二章が大分県津久見市出身で現代美人画ブームの牽引役となっている池永康晟氏の作品展となっています。
残念ながら、展示作品はすべて写真撮影禁止となっています。
第一章 美人画の雪月花−培広庵コレクション
(上記画像は竹久夢二「投扇興」。大分市美術館HPより画像をお借りしています)
春、夏、秋、冬に4部屋に分かれて全部で57点もの作品が展示されています。
すべて個人的なコレクションなのが凄い。
明治、大正、昭和初期に制作された作品たちには、写し鏡のように、その時代に求められた理想の女性像が描かれています。
恋や、男性との離別、舞妓、遊女などが繰り返し描かれているテーマで、当時の風俗や習慣を伝える貴重な資料にもなっています。
時代も時代ですから、掛け軸に描かれていたり、屏風に描かれた作品が多かったです。
大きなサイズの作品もあるので、車椅子の方でも観覧しやすいと思います。
第二章 美人画の現在−池永康晟
(上記画像は池永康晟「椿蕾・穂波」。大分市美術館HPからお借りしています)
明治〜昭和初期に人気を博した美人画も、戦後は生活様式の変化(着物姿の女性が身近ではなくなった)や、グラビアなどのメディアの登場もあり、描かれなくなっていたそうです。
しかし令和となった今、アートフェアやSNSなどの新たな舞台で、「現代美人画」が再び脚光を浴びているとのこと。
その「現代美人画」ブームを牽引役となっているのが池永康晟氏です。
麻布のキャンパス地に岩絵具で描くという独特の技法で生み出される美人画。
元AKB48の横山由依さんの初写真集「ゆいはん」には、池永氏が手掛けた横山さんの美人画が掲載されており、今回の展覧会でも2点展示されていました。
アイドル事情に詳しくない私でも、横山さんがモデルと分かるくらいのリアルさ、そして静かな色気が作品から漂ってきたのを覚えています。
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他にも池永さんの出身校である、大分県立芸術緑丘高等学校の卒業制作作品を含め、計26点が展示されています。
第一章の美人画とは違い、どの作品も強い瞳でこちらを見ているのと、作品に描かれている女性一人ひとりに名前がつけられており、奇妙な現実感をまとっていたのが印象的でした。
芸術緑丘高校の生徒たちが手掛けた作品も!
池永康晟氏の母校でもある大分県立芸術緑丘高等学校。
その在校生たちが「わたしにとっての美しい人」というテーマで手掛けた作品たちも展示されています。こちらは写真撮影OKとのことです。
男性がAIを自分に使用して女性化させた姿を描いていたり、性別・所属不明に見えるようにミステリアスな化粧を施したポートレート作品や、むしろ現代の美人画=男の美人画だってあるでしょ!という作品もあり、かなり見応え十分でした。
美しく在りたい自分の理想や、美しさを感じる動作、美の表現そのものへの追求など、自由な感性が素晴らしく、とってもワクワクしました。
男にとって都合の良いファンタジック非実在女性
美人画というジャンルは、「男の目線」で「理想の女性」、「男が美しいと感じる女性のしぐさ」などを表現しているものです。
ポイントは、「女性から見て、こうありたいという理想像ではない」し、「女性そのものの人間性を描いてはいない」ところです。
言ってしまえば醜さや、女性が生きる上で抱える葛藤、人間臭さは描かれていません。
第一章のコレクションでは女性というモノ(若さや美)に対する儚さや、憧れも描かれていると感じました。作者はもちろん(時代的にも)男性が多いのですが、一部ですが女性が手掛けた作品もありました。
それでも、女性という現実に生きている「人間」ではなく、「アイコンとしての女性」が全面に描かれた、「時代が追い求めた理想の女性像」の現実感の無さや無理解さは興味深かったです。
第二章なのですが、個人的にはちょっとキツかったです。
すべての作品が、池永氏の「理想とする女性」の、「理想的な状態」が描かれている。
魅力的で美しく、そしてすべて若い女性。
なぜか物憂げな表情を浮かべ、その肢体を無防備にさらけ出している。
視線や目の輝きは強いが、決して言葉を発することはない。
主軸は女性ではなく、「魔性の女に誘惑される【俺】」。
それがたくみに表現されていて、正直そんなに脂臭い性癖を鑑賞者にぶつけられてもな・・となってしまいました。
もちろん作品を観て「ウッヒョ〜!最高!」となるのも自由。「きっしょ」となるのも自由です。むしろアートというのは性癖を吐露してナンボでしょう。
会場で流されていたインタビュー映像で、「作品に描いている女性は好きな人や、手に入らなかった女性。女性に恋をして描いているし、観た人にも恋をしてほしい」と語っておられましたが・・・。
しかしそれほどまで氏の作品がリアルで、表情が豊かということでもあります。
美術鑑賞でこんなにイラついたのは久しぶりでした。
現代美人画がブームっていうけどほんとに流行ってんの??という想いです。
それ故、芸術緑丘高校の生徒たちの作品の爽やかさ、「美しい人」という解釈に対する自由度の高さは素晴らしかったです。未来は明るい。
加えて本展のチケットで鑑賞無料となる常設展示室の市美術館所属のコレクションもおすすめです。
特におすすめしたいのが、常設展示室3・女性芸術家による「わたしたち」が描くもの。
女性の身体に勝手に「愛」だの、「平和」だの、「希望」だの、エロティシズムの概念をのっけがちな男性芸術家へのアンチテーゼとなっています。
女性芸術家が表現したいものに「怒り」や「抵抗」はあれど、「男性」って含まれていないんだな、という印象を受けました。
貴方たちにかまっている暇はございませんのよ、って感じが清々しくて良かったです。
展示室は全部で4つ。高山辰雄、竹久夢二、草間彌生や蜷川実花などのビックネームの作品などを惜しげもなく展示しているので、ぜひ。
関連イベント
今回の展覧会で予定されているイベントのご紹介です。
イベントへの参加は、当日有効の観覧券が必要になります。
会場はすべて大分市美術館です。
1/26(木)10:15〜11:00
アーティスト・ミニトーク 池永康晟×南聡
画家の池永康晟氏と九州産業大学芸術学部教授の南聡氏によるトーク・イベントです。
事前に電話かメールでの申し込みが必要になります。予約は1/24(火)まで。
電話 | 097-554-5800 |
メール | artsinkou@city.oita.oita.jp 表題を「アーティスト・ミニトーク参加申込」にしてください |
1/28(土)13:30〜
アーティスト・トーク(申し込み終了)
画家の池永康晟氏を講師にお迎えしたトーク・イベントが開催されます。(申し込みはすでに終了しています)
今展覧会に26点もの作品を出展している池永氏。
画家の方自らがコンセプトは語るイベントは貴重です。参加される方はぜひ楽しんでください。
2/4(土)13:30〜
コレクター・トーク(先着順50名)
コレクターの培広庵氏を講師にお迎えしてのトーク・イベントです。
企画展示室にて行われる予定です。
1/25(水)、2/8(水) 各日ともに14:00〜
展示解説
平日ですが、学芸員の方による展示解説が予定されています。
きもの割
会期中、着物(和服)で訪れると、観覧料が200円引きになります。(一般1,000円、高校生・大学生700円)
チケット販売所にてスタッフの方にお声がけしてください。
BeautY-培広庵コレクション×池永 康晟 展 概要
「BeautY-培広庵コレクション×池永 康晟」展は2023年1月7日(土)〜2月19日(日)まで大分市美術館で開催中です。
開館時間 | 10:00〜18:00<入館は17:30まで> |
休館日 | 1/10(火)、16(月)、23(月)、30(月)、2/13(月) |
観覧料 | 一般 1,200円 高校生・大学生 900円 中学生以下・身体障害者手帳・療育手帳・精神障害者保健福祉手帳掲示者とその介護者 無料 きもの割有り(チケット販売所にてスタッフの方にお声がけを!) 会期中、きもの(和服)で来館の場合 一般 1,000円 高校生・大学生 700円 |
駐車場 | 有(無料、約130台) |
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