アート

【大分市美術館】ロートレックとベル・エポックの巴里-1900年【感想】

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ベル・エポック(Belle Époque)。美しき時代。
19世紀末から第一次世界大戦が勃発する1914年までの、パリが繁栄した華やかな時代や文化を回顧した言葉だそうです。
フランスは革命以降政治が民主政や帝政、王政などを行ったり来たりで安定しない状況にありながらも、大衆娯楽でもあるキャバレーやダンスホールが次々と開店し万国博覧会が開催されるなど文化的に大勢していきました。


そのベル・エポックに活躍したのが本展示会のタイトルやポスターに採用されているアンリ・ド・トゥルーズ=ロートレックです。


ロートレックだけではなく、同時代に活躍したミュシャやドガなどの作品も鑑賞できる贅沢な展覧会。
華やかで騒々しいパリの街を体感してみましょう。


また本展は会場内の作品すべて撮影OK(動画はNG)となっています。

Ⅰ.トゥルーズ・ロートレック

会場は大きく分けて3つの構成になっています。一番最初は本展の目玉でもあるロートレックをテーマにしています。

ロートレック27歳時の写真。

8世紀から続くフランス最古の貴族の長男として生を受けたロートレック。
ご覧の通り、ハンディキャップ(骨成形不全)を持っています。
貴族特有の近新婚の影響か、子供の頃2度落馬したこともあり、彼の足は成長を止めました。

絵の才能に恵まれ、パリで学んだロートレック。
パリで一番の盛り場であるモンマルトルのキャバレーに入り浸り(お金持ち&コミュ強)、親交のあった踊り子の公演ポスターを手掛けたことで彼は花開いていきます。
広告を芸術の域まで高めたロートレックでしたが、骨形成不全の痛みを誤魔化すために常飲していたアルコールに心身ともに蝕まれ、わずか36歳の若さで亡くなりました。

ロートレックといえばポスター作品。
上記はエグランティーヌ嬢一座。有名なフレンチカンカン(スカートをたくし上げ、足を上げて踊る)一座のロンドン公演時のポスターです。
展示解説によると、踊り子の並び順や仔細な指示を出した制作依頼の手紙が残っているそうですがロートレックは一切無視して自由に描いたそうです(大貴族ムーブ)。

どういう気持ちの顔これ。
ちなみにこちらの4人組、公演後は嫉妬がもとで解散してしまったそう。うぅむ。

動きや人物の特徴をうまく捉えた描写と、浮世絵から学んだともいわれる大胆な構図がロートレックの特徴ですが、感情や人間性の描写も鋭かったようです。

他にも歌謡集の挿絵や、精神病院入院時代に描いた素描なども含めると結構な数の作品が展示されています。

Ⅱ.ベル・エポックのアンソロジー

2つめのテーマはベル・エポックならではの装飾版画が展示されています。
エスタンプ・モデルヌという1897年から1899にかけて毎月発行された版画作品集。その24編全てが展示されています。すごい!
石版画の技術、印刷技術が発達し、美術作品としても鑑賞に耐えうる装飾版画が登場したのもこの時代です。ポスターは大型で管理がしずらく、装飾版画は庶民的にサイズ感もちょうど良かったらしいです。

エスタンプ・モデルヌの表紙。装丁もミュシャが手掛けています。

かなりの作品数でボリュームがあります。
それまでアートが貴族などの限られた人の趣味であった時代から、大衆でも手に入りやすくなったという意味でも時代の転換点といえるでしょう。

Ⅲ.時代を彩った作家たち

最後のテーマは、ベル・エポックに活躍した画家がテーマです。
ロートレックとも親交があったミュシャやドガの作品も展示されています。

ミュシャの石版画がデザインに使用されたビスケット缶。斬新な展示方法ですね。
1900年に開催されたパリ万国博覧会の会場で販売された同商品はミュシャの人気とともに大ヒットし、世界中にミュシャの名も広まりました。

こちらはドガの作品。
ロートレックはドガをリスペクトし、ドガと同じような構図の作品を描くくらい敬愛していました。
一方ドガは口撃力特化型コミュ障。障害のあるロートレックに対しても(もちろん女性に対しても)差別主義だったようです。当時の価値観で言えば普通かもしれません。
女性を真正面から描かない(描けない)ことで有名なドガですが、上記の石版画は珍しく真正面から女性の顔(視線)を描いています・・・が顔が溶けて月蝕の仮面みたいになっています。ホラーやん。

ジュール・シュレが手掛けた「虹」という上演作品のポスター。
ロートレックが活躍するちょっと前の1870年から80年の間に大人気になり、彼のポスターがパリの街中の至るところに飾られていたそうです。
躍動感にあふれた構図で色味も分かりやすくて素敵。

そのシュレが手掛けたムーラン・ルージュ(キャバレー)の開店ポスターの前で写真を撮る支配人とロートレック(手前)。写真を撮った2年後、ロートレックもムーラン・ルージュのポスターを手掛けることになります。浪漫ですね。


全体的に作品数が多く見応え十分な展覧会でした。ゆっくり見て1時間超えるくらいだと思います。
また展示解説も分かりやすく、ところどころに当時のパリの町並みを撮影した白黒写真も展示しており、没入感が高かったです。

ぜひパリジャン、パリジェンヌになったつもりで作品をご覧になってくださいませ。

ロートレックとベル・エポックの巴里-1900年 概要

ロートレックとベル・エポックの巴里-1900年展は2024年6月9日(日)まで大分市美術館にて開催中です。

ダンスホールの優雅で騒がしいBGMが聞こえてきそうな華やかな展覧会でした。
大分でロートレックの作品が見られる貴重な展覧会です。お見逃し無く。

開館時間10:00〜18:00<入館は17:30まで>
休館日4/22(月)、30(火)、5/13(月)、20(月)、27(月)
観覧料一般       1200円
高校生・大学生 900円
中学生以下・身体障害者手帳・療育手帳・精神障害者保健福祉手帳掲示者とその介護者 無料
HPhttps://www.city.oita.oita.jp/o210/bunkasports/bunka/bijutsukan/special_exhibition/paris1900-1.html
駐車場有(無料、約130台)
備考大分駅からワンコイン(100円)で乗れる周遊バス運行中
詳しくはこちら(大分市のHPへジャンプします)

関連記事:【大分県立美術館】つくる展【感想】

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