アニマルウェルフェアという言葉をご存知ですか?
アニマルウェルフェア、とは動物福祉という考え方です。
動物、といっても猫や犬などの愛玩動物(ペット)ではなく、牛、豚、鶏などの家畜動物のことを指します。
取り組みが盛んなヨーロッパに比べると、日本での取り組みはいまいちです。
そもそも消費者にとっては、アニマルウェルフェアという言葉の認知度すら低いと思います。
私もつい最近知りました。
子どもの頃はお肉や卵への認識なんて、好き、美味しい、くらいだったのに、なんだか大変な時代になりましたねぇ。
アニマルウェルフェアってなんなんだ?
アニマルウェルフェアについてざっくりと説明します。
アニマルウェルフェアという概念は、動物が客観的に満たされているかどうかを判断するため、1922年、イギリスで誕生したそうです。
そして現在では多くのヨーロッパの国々、大陸を越えてアメリカでも取り組みが広がっています。
アニマルウェルフェアの基本理念は、5つの自由から成り立っています。
①餓えと渇きからの自由
②不快からの自由
③痛み、傷、病気からの自由
④正常行動発現の自由
⑤恐怖や悲しみからの自由
日本人にとってちょっとイメージが沸かないのは④の正常行動発現の自由でしょうか。
これは、動物たちが本能や習性に従えるように、環境を整えようということです。
例えばニワトリの場合、夜は高いところで眠る習性があるそうです。
眠っている時に野生動物から身を守る本能から来ているそうで、アニマルウェルフェアに準ずる場合、とまり木などを設置する必要性があります。
お察しの通り、アニマルウェルフェアの実現にはお金と手間がかかり、広大な土地も必要になります。
考え方自体は日本でも10年以上前から畜産農家の間では知られているようです。
が、アニマルウェルフェア仕様の畜舎に建て替える場合は補助金が支給される、などの大胆な政策が取られない限り、普及しないと思います。
もしくは、認定を受けた施設、方法で生産された畜産物は税金控除が発生するなど。
平飼いや、放し飼いで生産された卵もスーパーで買うことが出来ますが、やはりケージ飼いされたニワトリの卵よりお値段は高めです。
そして、やはり値段が高い分、売れ行きは良くないそうです。
残念ながら日本では、アニマルウェルフェアに進んで取り組んでいる畜産農家のほうが損をする仕組みになっている状況です。
もし私が家畜だったら
この手の問題を議論する時、特に日本人はそのように考えてしまいがちですが、あまりそのように考えない方が良いです。
混乱するからです。
私がそうでした。
アニマルウェルフェアを紹介するサイトでは、これでもか!というくらいに「かわいそう」な畜産動物の写真や情報が掲載されています。
現状を伝えるメッセージ性にあふれたその写真や文章は、受け取り手の感情を強く揺さぶります。
しかし、家畜動物たちがかわいそうだから、という理由で世界的なアニマルウェルフェアへの取り組みが進んでいるわけではありません。
家畜動物がストレスから開放されたことで、生産性や品質をより高めることができるから、取り組みが進められているのだと考えるべきなのです。
アニマルウェルフェアとは、あくまでも人間の視点で、人間がよりよい畜産物を得るために、人間のために生み出された概念です。
動物たちがかわいそうだと思う。
もっと自由な環境下でのびのびと育てられるべきだ。
その方が動物たちも喜ぶはずだ。
そう本気で思うのなら、あなたが学ぶべきなのはアニマルウェルフェアではなく、ヴィーガン(完全菜食主義者)になる方法です。
どんなにきれいごとを並べ立てて、お題目を揃えたとしても、アニマルウェルフェアでは、最終的に家畜動物は食糧として消費されます。
もしあなたが家畜動物だったとして、自由な放し飼いの環境でのびのびと楽しく生きていたとして、喜んで自分の身体を人間に食べてもらいたいと思いますか?
寿命を全うした後に食べられるのではなく、食べられるために殺されるのです。
もしお世話をたくさんした分、きっと家畜動物も感謝して美味しく食べられることを受け入れてくれる、などというアニマルウェルフェアのサイトがあれば信用してはいけません。
ミノタウロスの皿は現実には存在しないのです。
値段の高さ=品質ではないのが難しい
アニマルウェルフェアに取り組むことで、畜産製品の品質は向上すると言われています。
すでに日本でも取り組んでいる畜産農家の方も、もちろんいらっしゃいます。
工場化された大規模経営の企業農家ではなく、個人経営の畜産農家の方が多いです。
大企業であればあるほど、今現在の設備や施設、管理体制を見なおさなければならず、莫大な投資を必要とします。
政府としても「アニマルウェルフェアに取り組むことで施設や整備コストの上昇になるものではない」と銘打っているのは、大企業や畜産農家への配慮した結果なのだと思います。
(上記の画像は農林水産省のホームページからお借りしています。)
現在日本採用されている施設や設備ではアニマルウェルフェアの達成は不可能です。
アニマルウェルフェアの実行にはお金と時間がかかります。
そして、その費用は「価格」という形で現れます。
一番分かりやすい例は、卵かもしれません。
平飼いされた卵と、ケージ飼いされた卵の価格は100円以上違いますよね。
しかし、価格が高い=きちんとアニマルウェルフェアの理念に沿っている、というわけではないのが難しいところです。
卵の場合は、ケージ飼い飼育でも、単純にエサにこだわっているために値段が跳ね上がっている場合もあります。
(有機飼料で育てました!や国産原材料のみ使用!など)
また、平飼いという言葉がパックに書いてあったとしても、実情はアニマルウェルフェアとはかけ離れているかもしれません。
平飼い飼育では、ニワトリの糞を適宜清掃しなければならず、管理もそれだけ大変になります。
他ブログ様で分かりやすく説明されていたので、ご紹介したいと思います。
ブログを書いた方は、飼料メーカーで勤務されたご経験もあるそうです。
ロジカルに生きる/中途半端な理系女が豆知識とコラムをお届け
環境や施設だけを整えて、日頃の管理を怠っている。
そんな畜産農家の方もいるようです。
これは、アニマルウェルフェアへの対応を明確化、基準化せず、畜産農家のモラルのみに頼っている国の方針のせいでもあります。
自分たちで作り上げていく未来
アニマルウェルフェアの理念はだいたい分かった。
けれど、どこでアニマルウェルフェア対応の食品を購入すればいいのか分からない。
確かにそうです。
卵はまだ買いやすいとしても、牛肉や、豚肉、鶏肉のアニマルウェルフェア対応製品は一般スーパーには流通していません。
オンラインショップ対応の畜産農家さんのサイトや、有名所ではらでぃっしゅぼーやが通販していますが、それでもやはり気軽に購入できない印象です。
畜産物というのは、消費者が需要を牽引していくものです。
そして、需要が増えなければ供給は増えない。
供給が増えなければ儲けの出る見込みは薄く、大企業は今まで通りの飼育方法を変える必要性も感じないでしょう。
大企業が生産体制を整えない限り、アニマルウェルフェアに対応した畜産物が気軽にスーパーで購入できる未来は訪れません。
そして日本の現状は、アニマルウェルフェアに対応した飼育方法を導入している畜産農家の方が、損をしている状態です。
現状を変えるためには、まず知ることから。
私は、いつも卵を買う時は値段だけしか気にしていませんでした。
今度スーパーの卵売り場に行った時は、慎重に卵を選んでみようと思っています。
関連記事:【美食か悪食か】クリーンミート【殺さないために生きていない肉を作る時代】
追記
先日スーパーを4店舗徘徊し、アニマルウェルフェアの観点から卵を確認してみました。
卵がどんな栄養素を強化されているか、つまり卵を生んだニワトリがどんなエサを食べていたかの記述はたくさんありましたが、ニワトリがどんな状態で過ごしているかについての記述があった卵は、4店舗中、1店舗のしかも1銘柄だけでした。
お値段は6個入りで160円程度。消費税まで入れると1個あたり約30円ですね。
これを高いと感じるか、妥当だと感じるかはもちろん人それぞれです。
栄養強化タイプの卵でもっと値段が高いのもありますしね。
今度実際に購入して、味を確かめてみようと思います。
追記の追記
その後実際に平飼い卵を購入し、食べてみました。
個人的感想としては、やはりケージ飼いされた卵よりも美味しく感じます。
(値段が高いので、美味しく感じる、というのもあると思いますが)
なんとなく、黄身が濃い気がします。
一番の違いは白身の味の良さ、香りの良さだと感じました。
食べたことが無い方は、機会があればぜひ平飼いの卵にチャレンジされてみてください。