栄養士として働いていく中で、一度は悩むこと。
それは調理経験の有無ではないでしょうか?
調理経験。
短大や大学などの栄養士養成コースでは、必修科目として調理実習のカリキュラムが組まれています。
それも、ほぼ毎日のように調理実習を繰り返すのですから、ある程度は慣れます。
しかし,誰にでも向き不向きがあるもの。
調理実習の時間が苦痛だった、という方もいらっしゃるのではないでしょうか?
また、栄養士として就職した場合、もちろん場所や規模にもよりますが、最初は厨房経験から勤務開始、という職場も少なくありません。
初めて見る業務用の鍋やフライパンの重さといったら!
回転釜?自分が煮込まれそう・・
フライヤーで自分の指を天ぷらにしちゃった!
そんな右往左往な状況で精神的にも、体力的にもかなり疲弊した経験がある方もいらっしゃるのではないかと思います。
また、栄養士=栄養のプロですが、周囲の皆さんの中には栄養士=料理が好きで調理の腕も上手いハズという勝手な構図が頭の中にあるのも事実です。
(個人的には調理のプロは調理師だと考えています)
「調理スキルが一向に上達しない・・私は栄養士に向いていないんじゃないか??」と落ち込んでいる方や、はたまた厨房の方から「栄養士の割に調理が下手ねぇ」なんて嫌味を言われて落ち込んでいる方。
そんな方に向けて、10年以上栄養士として働いた経験から、栄養士に調理スキルは必要なのか?という観点でお話しようと思います。
栄養士に調理スキルは必要か
結論から言えば、私は栄養士に調理経験のスキルは必須ではないと考えています。
なぜなら、栄養士として勤務していた病院時代、また現職場でも調理に関わらない栄養士の方を何人も見ているからです。
包丁も握ったことがありません、というレベルは流石にまずいと思いますが、調理実習レベルでも全然問題ないと考えています。
料理することが大好きで、厨房業務にも入りたい!
厨房の動きが分かってないと、献立を組む時にイメージが沸かないし、仕事にならない!という声もあると思います。
といかむしろ私はどちらかというとそんなタイプです。
実際切り込みの状態から材料をみないと、発注のイメージすら沸かないし、在庫管理に関してもピンと来ないです。
ですが、私はいろんなタイプの栄養士が居ても良いんじゃないかと考えています。
調理スキルとはコミュニケーションスキルである
端的に言えば、私は調理員の方とコミュニケーションを取る手段のひとつ=調理スキルだと思っています。
「前に居た栄養士さんは、調理にまったく関わらなかった」
「栄養士さんたら、厨房に近づくこともしないのよ」
よく調理員の方たちから聞く言葉です。
確かに、食は厨房で調理されるところから始まり、対象者(病院で言えば患者様)に食べてもらえて初めて意味を持ちます。
どんな食材がどの様に調理され、どんな風に盛り付けられているのか。
献立を立て、それに基づいて発注を行ったなら、それが実際どのように調理されているのか。
きちんと手順を守られているか、衛生面で問題はないのか、中心温度などは適正に計られているか・・などは管理する必要があります。
その管理する方法は、十人十色。
実際に厨房に入り、調理員の方と一緒に鍋釜をふってみるのもひとつの方法ですし、毎日(あるいは週1でも)ミーティングを行う時間を設けてみるのもおすすめです。
また、デスクワーク中心の業務でも、配膳前の時間は必ず検品を行うのも大事です。
どのようなかたちでもいいと思います。
重要なのは、厨房の方とのコミュニケーションをきちんと取ることです。
間違っても、「厨房に近づこうとしない」というイメージを持たれてはいけないと思います。
栄養士が立てた献立を実際に調理するのは厨房の方です。
もし、献立が複雑すぎて調理に時間や手間がかかりすぎては配膳時間に間に合いませんし、食中毒やインシデントのリスクも増えます。
また、食事に関するクレームやアクシデントが発生した場合、そしてそれが厨房で起こったことならば改善の指示や指導をしなければなりません。
しかし、厨房に関心がない、関わろうとしないと思われている栄養士に、厨房の方が心を開いて話を聞いてくれるでしょうか。
その場は聞いても、聞き入れてくれないことがほとんどだと思います。
そのためにも、普段から厨房の方とコミュニケーションを取ることは大事なことなのです。
調理スキルがない場合は他のスキルを磨こう
調理スキルは無くても、現場の方とコミュニケーションをきちんと取れていれば厨房はうまく回ります。
またインシデントやアクシデントが発生した場合も対処がしやすいです。
しかし、栄養士として働くのであれば、調理スキルがない場合は他のスキルを身につけた方が圧倒的に仕事がしやすいです。
例えば、事務処理に対するスキルがあれば次のようなシーンで役立ちます。
✔保健所の立ち入り検査時や、監査時など受け答えが正確に出来る。
監査に必要な書類一式抜けがなくまとめられている。
✔勉強会や講習会に参加し、常に情報をバージョンアップ。
調理マニュアルや衛生管理マニュアルなどを改定する。
✔原価計算も苦にならないので、献立立案の時間が節約できる。
✔献立や調理の仕様書など、見やすい資料を作成できるので、指示が伝わりやすい。
また、対人スキルが高い場合は次のような場面で有利です。
✔栄養相談や指導を効率よくこなし、診療報酬アップに貢献できる。
✔患者様や入所者様などの食事の感想を、厨房の方にこまめに伝えることができ、双方のコミュニケーションがとれる。
✔他部署とのコミュニケーションを円滑に図れるので、業務の連携がスムーズに運ぶ。
私が栄養士として勤務してきた中で、出会った調理業務に携わらない系の栄養士の方たちは、事務処理能力や対人スキルが高い方が多かったです。
Excelで複雑な計算式を組める方もいたり、ものすごく勉強家で常に最新の知識を得て、それを実際の業務の中で活かしている方もいました。
・・ごくたまにどのスキルも持っていない栄養士の方もいますが、そのような方は割とすぐ辞めてしまいます。
厳しいようですが、当然といえば、当然かもしれません。
しかし、ひとつでもスキルを持っていれば、それが武器になります。
そしてそのスキルをどんどん磨いていけば良いのです。
調理はできないけど、他部署や患者様とのコミニュケーションなら任せて!
逆に、パソコン作業はちょっと苦手だけど、調理員さんが病欠になったりしたときは任せて!という事もできます。
武器は、自信につながります。
おわりに
今回は栄養士に調理スキルは必要なのか?というテーマを、経験をふまえてお話しました。
まとめると、
✔調理スキルは無くても大丈夫。
✔ただしきちんと、調理員の方とコミュニケーションを取ること。
✔そして、調理スキルに代わる他のスキルを身につけること。
以上になります。
大事なのは、自分がどのスキルタイプなのか見極めることです。
正直に言えば、私は書類や事務の仕事はあまり好みません。
やらなければいけない時は、もう、神経をすり減らす思いでこなしています、笑
厨房で鍋釜をふっている時のほうが気が楽です。
逆に言えば、調理がどうしても苦手・・という栄養士さんもいるはず。
そんな方は、まず自分がどの業務についているときが苦にならないのかを思い浮かべましょう。
きっと自分にあったスキルが見つかるはずです。
スキルが見つかったら、あとはひたすら磨きをかけるだけです。
事務も、対人関係も、調理もすべて完璧にこなす必要はありません。
ただ、自分に出来ることと出来ないこと、それを明確にしておくことは、とても重要なことです。
闇雲にすべてをこなそうとすれば、疲れて心が折れてしまいます。
この業務はあまり苦にならないし、時間もかからないな・・そう思える分野があれば大丈夫です。
自分にあったスキルが見つかることを願っています。