考える 読書感想文

【読書感想文】みんなはアイスをなめている

投稿日:2021年4月16日 更新日:

食べられて、学校に行けて、命さえあったらそれで幸せなんだろうか。

幸せだって思えないおれが、いけないんだろうか。

みんなはアイスをなめている より引用


2019年国民生活基礎調査の結果によると、日本は17歳以下の貧困率が13.5%で、子どもの7人に1人が貧困状態にあるそうです。

子どもの貧困率13.5% 7人に1人、改善せず(日本経済新聞の記事にジャンプします)


最近テレビニュースなどでも取り上げられるようになってきた、子どもの貧困問題。
子どもの貧困なんて、日本は先進国なのに・・?と訝しがる方もいらっしゃると思います。



しかし、労働人口における非正規雇用の割合が4割に達した日本。


手取り年収が200万円にも満たない生活を送っている大人たち(労働者)が増えているのだから、貧困にあえぐ子どもたちが増えているのも当然の流れなのかもしれません。


今回は、絵本「おはなしSDGs みんなはアイスをなめている」を通して貧困問題について考えてみようと思います。

絵本 みんなはアイスをなめている あらすじ

まず絵本の内容を少しご紹介しておきます。


主人公は小学6年生の男の子。
小学3年生の妹と、介護職の母親の3人暮らしです。

学校から帰宅すると、洗濯、掃除などの家事をこなし、母親が置いていった500円で二人分のお惣菜をスーパーで買い、夕飯を食べる。
そんな毎日を送っています。


食いしん坊な私にとってはもうこの時点で胃がひっくり返りそうなツラい描写です。


二人で500円ということは、一人分で250円です。育ち盛り、食べ盛りの子供たちが、です。

主人公の男の子は、電卓を持ち、消費税も考慮しつつ、慎重にお惣菜を選びます。
唐揚げが食べたいけど、まだ幼い妹はチョコレートが欲しいと言って聞かない。
結局偏食で少食の妹に根負けし、その日の献立は唐揚げより安い、ハムカツとチョコレートのお菓子と・・・白いご飯。


主人公の男の子が貧乏くさいメニューだと愚痴をこぼすと、妹が反論します。

うちは貧乏なんかじゃない!

中略

貧乏な人っていうのはね、ご飯も食べられないんだよ。
ガリガリにやせているんだよ。

みんなはアイスをなめている より引用

世界の貧困特集的なテレビ番組で見た基準で「貧乏じゃない!」と反論する妹。

「学校にもいけないなんて、かわいそー」

世界の貧困者たちは、一日200円以下で暮らしている。


そのテレビ番組のナレーションを聞いて嬉しそうに、

「うちは貧乏じゃないね!だって毎日スーパーで500円も使ってるもん!」

と無邪気に言う妹。


もうこの時点で私のライフはゼロです。つらい。つらすぎる。


母親も母親で大変です。

よりによって介護職は給与が低い職業。
しかも腰を痛めてしまい、正社員からパートになっている。
腰が痛いので、たまに休んだり、早退したり、、だましだまし働いている。


パートは時給制なので、更に収入が低くなる。


そんな母親の姿を見ている娘は、歯の学校検診で引っかかったことも、虫歯が進行して歯が穴だらけになっても、ほっぺたが腫れても、お金が心配で言い出せない。


流石に異常に気がついた主人公が歯医者に連れていきますが、今度は治療費にお金を使ってしまったので夕飯が買えなくなります。


帰宅した母親はいつもヘトヘトに疲れており、そんな兄妹の様子やおかずがない食卓の様子にも気がつけない。


みじめな生活。


他のみんなができることを、自分たちだけができない。
みじめだということを必死に考えないようにして、その気持を押し隠して学校に行く。
どんなに学校に行きたくなくても、給食が食べられないのはもっと困るので、行くしかない。


絵本の最後は少しだけ希望を持った描写で終わりますが、とにかく貧困というテーマが重くのしかかる内容でした。

先進諸国に比べ生活保護利用率が低い日本

絵本を読んでいる途中から薄々気がついていたことがあります。

おそらく皆さんも感じていたことだと思います。


なぜ母親は生活保護を申請しないのか。


私も絵本を読むまで知らなかったのですが、日本は先進諸国に比べ生活保護利用率が異様に低いとのことです。

もちろん、申請したのに却下された、というパターンもあるかと思います。


つい最近も、所持金や住む場所もない生活保護申請者に対して非情な対応をした横浜市役所の対応がニュースになっていました。


しかし、中には申請するという選択肢(考え)が思い浮かばないパターンもあるのではないでしょうか。


毎日必死に働いて、ヘトヘトになって帰宅したら寝るだけ。


そんな生活を送っている人が、冷静になって生活保護を申請したほうがまともな生活を送れる、ということに気がつけるでしょうか。


あるいは、誰かに助けを求める、という考えも浮かばない状態かもしれません。


例えるなら、よくニュースに取り上げられるブラック企業による残業代未払いや、パワーハラスメントやセクハラ問題。


そんな会社や労働の理不尽にさらされた時、私たちはすぐに労働基準監督署に駆け込むことができるでしょうか。


「同期は残業100時間させられている」
「仕事があって、生活できているだけマシ」
「どうせ何も変わらない」


そんな考えで、ただ耐えることを選んでしまいがちなのではないでしょうか。

ちょうど、絵本の中で主人公の妹が「うちは貧乏じゃない!」と否定したように。


行ったことのない国の見知らぬ誰かの生活と比べて「自分はまだマシな生活を送っている」と、自分で自分を慰めてしまう人が多いのではないでしょうか。

貧困とは選択肢がなくなること

金のある家に生まれたら当たり。

ない家に生まれたらはずれ。

結局そういうことなのか?
引いた覚えのないそんなくじ引きで、人生が決まってしまうって、なんなんだ?

みんなはアイスをなめている より引用


お金があれば、唐揚げを諦めなくてよかった。
お金があれば、憧れているサッカークラブにも入ることができた。
お金があれば、歯の治療に使ってしまって、夕飯が白ご飯だけ、なんてこともなかった。


私は、お金がある状態の定義のひとつは、選択肢があるということだと考えています。


お金があれば、唐揚げかハムカツかを迷って、好きな方を選ぶことができる。
お金があれば、家事をせず、学童保育に通ってもいいし、友達と遊んでもいいし、勉強したっていい。


お金がない、貧しい状態ということは、選択肢がどんどんなくなるということ


唐揚げが食べたくても、ハムカツしか買うことが出来ない。
友達と遊びたくても、妹の面倒を見ながら家事をしなければならない。


自分で自分の人生を選び取れない


周りの皆が当たり前に出来ていることが、お金がない、というだけで出来ない。


そんなみじめな思いや経験は、簡単にこころを蝕んでいくでしょう。


そして子どもたちはいつの間にか「耐え続ける」もしくは「諦める」という選択肢しか無いのだと考えてしまうのです。
むしろ、お金がない状態、選択肢がない状態が自分にとって普通なのだと思い込んでしまう。

なぜなら、お金がないのは子どもたちのせいではないからです。

そして子どもなのでお金を稼ぐ、ということもできない。


貧困問題の恐ろしさは、そこにあるのだと思います。

「最終的には生活保護がある」ことを知らない人たち

絵本の中で描かれていた子どもの貧困。


貧困に苦しんでいる主人公に声をかけてくれたのは、同じく貧困で苦しんでいる同級生の女の子でした。


妹を歯医者に連れて行った時に、たまたま居合わせていた女の子は、主人公が治療費にどれくらいかかるのか心配している様子を見て気がついたのだと言います。


そして、「ひとり親医療費助成制度」があるから、虫歯の治療費はなんとかなるということを教えてくれます。
また、女の子本人も母子家庭で、貧困に苦しんでいることも。


なんだか身も蓋もない展開です。


苦しんでいる状態を助けてくれたのは担任の先生でもなく、もちろん母親でもなく、似た境遇の子ども。
結局周りの大人たちは助けてくれず、子どもたちが教えあって支え合って生きていく・・・。


も、もう少しせめて担任の先生が介入してくれてもいいのでは・・と考えたりしますが「#教師のバトン」炎上問題にも見えるくらい教師は仕事に忙殺されているようなので実質生徒ひとりひとりの様子を見るなんて不可能なのかもしれません。


まして母親はいつも疲れ切っていて、娘が虫歯で苦しんでいるということにも気がついていませんでした。
むしろ「もうなんともない」という娘の言葉でお金のかかる虫歯の治療が一回で終わったのだと安堵すらしていました。


虫歯の治療が一回で終わるはずありません。


絵本ではたまたま女の子が気がついてくれたから良かったものの、実際の世界では誰にも気がついてもらえず、生活保護を求めるという選択肢すら知らない子どもや親も多いと思うと、、、とてもいたたまれません。


前菅首相が国会で「最終的には生活保護がある」と発言されたニュース。


そういった意味では、国会の場で首相がおっしゃった意義はとても大きかったのではと思います。


開き直りだ、弱者に対する突き放しだと揶揄されても、少なくとも、「生活保護を申請することが悪いことや恥ずかしいこと」だと思いこんでいる人の割合は減らせたと思います。

貧困になった時どうすれば良いのかを学んでおこう

SDGsの17個の目標の一番はじめに出てくるのが、「貧困をなくそう」です。


もちろん、世界中で一日200円以下で生活することを余儀なくされている人たち、満足に食事が取れず、成長に必要な栄養が取れない、まして学校に行きたくても通えない人たちがいることは分かっています。


しかし、そういった方たちを救うのはひとまず、国連とお金を持っている国々の方たちに任せましょう。


日本はもうそれどころではありません。


日本の子どもはすでに7人に1人が貧困状態なのです。
もちろん大人でも貧困状態に陥っている人々が増えています。


それでも日本はやはり優しい国です。


貧困状態に陥ったとしても、生活保護や医療費の免除制度を活用することができる。
生活保護を活用すれば、夕飯が白ご飯だけ、なんて事態はせめて避けられるでしょう。


肝心なのは、どこにいけば生活保護が申請できるのか、申請の方法や、税金免除の条件など、できるを限り知って自分が取れる選択肢を増やしておくことです。


貧困状態に陥らないことは確かに大事です。
しかし、自分で望んで貧困状態になる人なんていません。


不慮の事故でいきなり働けない状態になるかもしれません。
体調や精神的に参ってしまって働けない状態になるかもしれません。
感染症の影響で就業先が倒産したり、シフトを減らされたりして、給与が激減し、生活がままならなくなるかもしれません。



大切なのは、もし自分が貧困状態になってしまった時、どうすればよいのかを学んでおくこと。


そのためにも、貧困について考えることは意味があります。

誰にとっても決して他人事ではないのです。

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