屏風に描かれているのは、かの有名な葛飾北斎の富嶽三十六景。
作者や作品のタイトルは思い浮かばなくても、誰しもが「この絵、見たことあるなぁ」という感覚を持てるくらい日本的な美術作品だと言えるでしょう。
そんな「日本的な美」を堪能できる美術展。
「THIS IS JAPAN 永遠の日本美術」と題したこの展覧会は、東京富士美術館所蔵の貴重なコレクションが見られる重厚な展覧会でもあり、どこか新しさをも感じさせるような内容となっています。
THIS IS JAPAN 永遠の日本美術展概要
この「THIS IS JAPAN 永遠の日本美術」展では、まさに日本的な美術作品が堪能できます。
日本刀や、戦国時代の鎧甲冑などはその最たるものでしょう。
状態の良い展示作品が、思う存分余すことなく見ることができるように配置されています。
日本刀の展示ですが、隅っこの方に何か置いてあります。
置いてあるのは、鏡。
刀の柄の部分、表面からでは見えない裏側まで見ることができるよう工夫されています。
浮世絵も、木の枠に藍色のバックで展示されています。
ライティング自体も、暖かみのある色味の照明。
葛飾北斎や歌川広重などの大御所の作品を揃えつつ、美術展全体の作品数は46点とそんなに多いわけではありません。
落ち着いた明かりの中で、美術鑑賞に馴染みがないという方でも気楽に楽しめるという内容になっています。
見せ方に工夫ありや
上記の注意書きは展覧会に入ってすぐのところに置いてあるものです。
縦書き、それも古めかしい言葉遣いで記された注意書き(写真撮影についてなど)は、つい足を止めて見入ってしまう演出となっています。
かと思えばこのように、灯籠風の鮮やかなランプも設置してあり、楽しい展覧会となっています。
日本刀展示のコーナーに設置されているのは、小上がりの畳空間と、刀。
実際に靴を脱いで、畳に上がることができ、そこでライティングされた刀の波紋を間近で眺めることができます。
日本刀は武術の道具でありながらも、美術品としての価値があります。
しかし知識としてそのことが分かっていても、実際どのようにしてその美しさに触れれば良いのか分からない。
そんなことが、よくあります。
また日本刀を至近距離で堪能できる機会もそうそうありません。
美術作品を遠くから鑑賞するだけでなく、より実体験を持てる愛で方。
この他にも、非接触型モニターを使用した屏風の展示もありました。
ウィズコロナを意識した展覧会ともなっています。
温故知新
これは時代劇などでよく見られる、お姫様が輿入れ(嫁入り)する時に乗る「乗物」です。
豪奢な作りで、金箔の蒔絵などもされており、間近で見ても遠目で見ても一目で身分の高い人が乗っているのだと分かります。
ところで最近は、テレビなどで時代劇を目にすることが昔より減ったのではないでしょうか。
昔は毎週水戸黄門や、遠山の金さん、大岡越前など、江戸時代がテーマの時代劇が必ず放映されていました。
NHKの大河ドラマも戦国時代をテーマにした作品が多かったように思います。
会場では子供たちの姿も見られましたが、彼らにとってはもはや「乗物」など謎の物体かもしれません。
日本美術のアイコン的に使用されている、日本刀や絵巻物、屏風や葛飾北斎に代表される浮世絵。
それらが生み出されたのは明治維新を迎えるより前の時代です。
作品そのものがどんなに素晴らしくても、例えば「国宝」と評価されていても、作品のみの展示ではもはやそれが日本的であると感じられる世代は、ひょっとしたら減っているのかもしれません。
永遠の日本的な美とは
美しく整えられた床の間や、どことなく静けさを感じさせる茶の間の景色に惹かれるのは、日本人だからでしょうか。
浮世絵に描かれた富士山を見て日本的なエッセンスを感じ取れるのは、きっと日本人だけではないはずです。
もし海外でこのように日本の美術作品を展示する機会があれば、イケアや無印良品のように、日本的な生活空間をまるごと美術館の中に再現し、その中で生活に寄り添うように美術作品の展示をするというのも面白いかもしれません。
そしてその展示方法は、現代日本で行ってもいいのではないでしょうか。
なにせ現代では畳も床の間も、まして仏壇や神棚さえも無い、という家庭のほうが多いはずです。
もとは床の間に飾られていた掛け軸や骨董作品なのですから、時を経るにつれて美術鑑賞に馴染みがない人が増えて当然です。
「永遠の日本美術」とは作品そのものだけを指す言葉ではないと思います。
「日本的なもの」を「日本的である」と感じられる土壌は大切にしていかなければならないと感じました。
THIS IS JAPAN 東京富士美術館所蔵 永遠の日本美術 開催概要
「THIS IS JAPAN 東京富士美術館所蔵 永遠の日本美術」展は現在大分市美術館で11月14日(日)まで開催中です。
会期 | 10月8日(金)〜11月14日(日) |
開館時間 | 午前10時〜午後6時(入館は午後5時30まで) |
休館日 | 毎週月曜日 |
観覧料 | 1200円(一般)、900円(高大生)、中学生以下無料 |