日本史上、もっとも短い期間の大正時代。
西暦で現すと、1912年から1926年のわずか15年間のことを指します。
世界史上でも、第一次世界大戦(1914−1919)やロシア革命(1922)が勃発したりと激動の時代でした。
今からちょうど約100年前の日本、そして大分。
大正ロマン、大正リアル。
本展覧会は、なんとなくイメージのつかみにくい「大正時代」を、市井の人々の営みからスポットを当て照らし出すという、非常に示唆に富んだ内容になっています。
大正ロマンってなんなんだ
本展覧会は、大きく分けて2部構成となっています。
1章は大正ロマン。そして2章は大正リアル、です。
ところで大正ロマンってなんなんでしょうか。
ウィキペディアによると、「大正ロマン」とは大正時代の雰囲気を伝える思潮や文化事象を指す言葉、だそうです。
現代でも人気がある美人画家・竹久夢二はずばり大正時代に活躍した人でした。そのため「大正ロマン」といえば竹久夢二を思い浮かべる方も多いと思います。
また夢二と同時代に活躍したのが、本展覧会のポスターにも採用されている高畠華宵(たかばたけ かしょう)です。
不思議な妖艶さをまとった女性の絵。
もちろんそれらは「男性の目線を通して描かれた、ほんとうの女性とはかけ離れた姿」です。
しかし、それは同時に「江戸時代以前からあった、男性との悲恋や運命の儚さ・か弱さを絡めて描かれる女性たち」とも違う、新しい女性たちの姿でもありました。
和洋折衷のファッションも相まって、「女性も憧れる美しい女性」の理想が閉じ込められている気がします。
当然ながら男性にとっての理想も抽出されています。
こちらは当時の少年雑誌の表紙。
日清(1894年)、日露(1904年)戦争の記憶が新しい当時。
赤く塗られた日本国の領土を見た少年たちの心は、ナショナリズムに踊ったことでしょう。
引札というのは当時でいうところのチラシだそうです。
広告にすら蒸気船がデザインされているという、当時の世相が伝わってきます。
大正ロマンにたっぷりと浸りつつ、軍靴の音が聞こえてきたところで、2章の大正リアルへと移りましょう。
大正のリアルとは
2章では、大正時代の政治、経済、社会、教育について、写真や絵、現物など多くの資料とともに展示解説されています。
単に日本史上の歴史の変遷を観る、というのではなく、それぞれ大分での政治、経済、社会、教育についても豊富な資料とともに解説されているので内容が頭に入って来やすいです。
私が生まれて今も住んでいる大分と、資料の中にある大分。
現在と過去。地続きなのが、目でも理解できます。
上記は1921年(大正10年)に建設され、戦後の1962年(昭和37)まで使用されていた大分県庁舎の写真。
この時代の建築物は、どこか重厚感をまとった造りです。
「私の地位」という大分県内の主要産物、特産物の生産額と全国ランキングをイラストとともに表した資料。
意外にも金や銀が主要産物だったことが分かります。
左上のしいたけの存在感。
100年経っても変わらない部分と、時代とともに変わった部分が見えてきます。
こちらは当時の別府市の地図。
海上交通の発展によって、観光地としての開発が進み、大分市よりも上下水道の建設が早く進んでいたそうです。
同じく県内の耶馬渓が国名勝の指定を受けたのも大正時代(1923年)。
全国的にも「観光というイベント」への気運が高まった時代ともいえます。
関連記事:【中津市歴史博物館】岩石の王国【感想】
三角形のこれ、何だか分かります??
実は洗濯機(全手動)なんだそう!
洗濯板でゴシゴシしたほうが汚れの落ちもスピードも良さそうですが、そこかしこにイノベーションの流れが見えて面白いです。試行錯誤って大事。
教育のコーナーでは、大正時代に使用されていたランドセルが展示されています。
100年経ってもきれいに形が残っているなんて・・きっと大事に使用されていたのでしょうね。豊後高田市の小学生が使用していたそうです。
こちらは高等女学校の卒業証書。
すべての女性が高等学校に通うことができた、というわけでもないでしょうが、女性にも学びへのチャンスがあったという事実は伺えます。
ただし女性が受ける教育の内容は家政学(衣食住を中心とした学問)が主で、卒業しても就職先など豊富には無かったでしょうから、いわゆる花嫁修業的な位置づけだったように推測します。
教科書からも、もちろん戦争の影が忍びよってきています。
作家・野上弥生子氏
展覧会では、明治、大正、昭和を生きた作家・野上弥生子氏のトピックも設けられています。
弥生子氏は大分県臼杵市出身。
高等小学校卒業後、単身上京し、東京の女学校へと進学。
東京で夫となる同郷の野上豊一郎氏と出会い、結婚。
豊一郎氏が夏目漱石の門下生であったことから、漱石の指導・支援を受けて弥生子氏は作家としてデビューします。
と、それなんてシンデレラストーリー?といった感じの野上弥生子氏の半生。
当時の女性が恋愛結婚をすることも、職業を持つことも、そして単純労働ではない、自らの才と知的能力によって金銭を稼ぐこともままならなかった時代。
女性の人権すら確立していなかった時代。
もちろんレアケースですが、それでも史実としてそのような生き方を選択できた女性が居たのだ、という事実になんだか嬉しくなってしまいますね。
ただ、、蛇足を付け加えたくなるのが私の悪いクセ。
野上弥生子氏は大分県民なら誰でも知っている調味料メーカー「フンドーキン」創業家のご息女です。(詳しくフンドーキンホームページまで)
商売なので、そりゃ浮き沈みはあるかと思います。
そして何よりも本人の才能と努力と運が必要です。
しかし、やはり過去も現代の私たちも持つべきものは、上京や進学にかかる費用を捻出できる実家の太さなのかもしれません(切ない)。
くっきりと浮かび上がる影
大正をノスタルジアする旅もいよいよ終盤です。
上記の写真は1923年(大正12年)に発生した、「関東大震災」についての大分新聞の号外です。
現代の様に、テレビもインターネットもない時代、多くの人が情報を手に入れる手段は新聞でした。
また、その新聞自体もメディアリテラシーが低かった時代です(現代日本のメディアリテラシーが高いとも特段思いませんが)。
記事に繰り返し登場した「朝鮮人暴動」に関する報道は、各所で引き起こされた「朝鮮人虐殺」に繋がったと考えられています。
100年前に起きた、朝鮮人暴動の流言に惑わされた人々が起こした悲劇。
しかし現代の我々もそんなに変わらないんじゃないかと思います。
新型コロナウイルスやワクチンに関する情報、フェイクニュース、ロシア・ウクライナ戦争・・SNSやネットニュースのコメント欄では罵詈雑言が飛び交い、キャンセルカルチャーやヘイトスピーチが溢れています。
無知や妄想は簡単に迷走へと育ちます。
そして迷走は気がつけば暴走へとすり替わっている。
軍靴の音がそこかしこから聞こえてきていた大正時代。
令和を生きる我々もまた、気がつけば新しい戦前を迎えているのかもしれません。
展覧会場の様子
全体的に展示の位置が低めに設定されており、とても見やすかったです。
子どもさんでも、車椅子の方でも鑑賞しやすいと感じました。
立ち上がっても、しゃがんでも見える展示設計。
解説文の内容も分かりやすく、しかも文字のサイズが大き目なので見ていて苦になりません。
要所要所に設置しているQRコードを読み込めば、スマホの画面で更に拡大して展示を観ることができます。すごい!
竹久夢二の展示コーナー。
多くの展覧会は実物は置いてあっても、実は一番見たいところ(表紙の細かい部分)がよく見えない、というパターンが多いです。
大正ノスタルジア展では、表紙を拡大コピーしてくれているので、雰囲気がめっちゃ分かりやすい。
もう全体的にかゆいところに手が届きまくりの展覧会でした。パーフェクト!
大正ノスタルジア展 概要
「大正ノスタルジア」展は宇佐市の大分県立歴史博物館で、2023年6月4日(日)まで開催中です。
紹介しきれなかった展示作品ばかりです。
ぜひ会場を訪れてノスタルジア__過ぎ去った時代を懐かしむこと__を楽しまれてください。
開催期間 | 2023年3月31日(金)〜6月4日(日) |
開館時間 | 午前9時〜17時 (入館は閉館の30分前まで) |
休館日 | 月曜日 |
観覧料 | 一般 310円 高大生160円 中学生以下・土曜日の高校生、障害者手帳掲示者とその介護者(1名)は無料 |
ギャラリートーク | 4月22日(土)、5月18日(木) 両日 14:00〜15:00 (要観覧料) |
HP | 大分県立歴史博物館https://www.pref.oita.jp/site/rekishihakubutsukan/ 展覧会に関するページhttps://www.pref.oita.jp/site/rekishihakubutsukan/r4-taisho-nostalgia.html |
https://www.instagram.com/rekihaku_oita/ | |
駐車場 | 有(150台、無料) |