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【大分県立歴史博物館】竹ものがたり【感想】

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「今は昔、竹取の翁といふ者ありけり」


言わずと知れた日本古来の超有名フィクションノベル「竹取物語」はこの一節から始まります。


物語はその後、光る竹を見つけたおじいさんがその中から現れた赤子をかぐや姫と名付け、おばあさんと育て、やがて美しく成長したかぐや姫は求婚者たちに無理難題をふっかけて返り討ちにしていく・・と、まぁそんな感じのストーリー展開でしたね。


途中で登場する火鼠の皮衣やら蓬莱の玉の枝やら、見たことも聞いたこともない、いかんとも現実感の無いアイテムが登場しますが、それでも物語に夢中になってしまうのは、冒頭で「竹」という誰にとってもイメージしやすい存在が描かれているからではないでしょうか?


古くから日本に自生し、ある時は日常生活に必要な道具として、ある時は神聖な存在として物語や美術作品に取り入れられてきた「竹」。


今回は、そんな「竹」が主役の展覧会。
会場には所狭しと並べられた竹の道具や工芸品たちがずらり。その世界観にどっぷりと浸かり、「竹」の可能性、魅力について想いをはせてみましょう。


また本展は一部のコーナーを除き写真撮影が禁止となっています。


第1章 竹と文化

上記の写真は会場の入り口付近に設置されていた「松に虎・竹に虎図屏風」のパネルです。(11月11日(土)からは実物が展示される予定)


日本では古くから「竹」が神聖な存在や依代(よりしろ)として見なされてきたことが、先述した「竹取物語」や、他にも「古事記」「源氏物語」から読み取ることができます。


また天に向かってまっすぐと成長するその様や、鮮やかな緑色から生命の源・清廉さの象徴ともされ、神事を行う際のアイテムにも使用されていました。
現代でも、正月飾りとして門松を設置する家や百貨店なども多いと思います。


水墨画や掛け軸などでも、よくモチーフとして「竹」が登場します。


会場では室町時代に編纂された宇佐神宮の資料や、江戸時代に編纂された源氏物語、竹取物語の絵巻など貴重な資料を見ることができます。
他にも大分県出身の日本画家・福田平八郎の「竹」の絵画も飾られていました。


第1章の終盤では、エジソンが手掛けた白熱電球のレプリカが展示されています。(下記の写真は政府広報オンラインよりお借りしています)

中のフィラメントに竹を使用することで、連続点灯時間をそれまでの40時間から1200時間まで延ばすことができ、白熱電球の商業化は大成功をおさめたそうです。

世界各地の竹の中からフィラメントの素材として選ばれたのは、京都にある石清水八幡宮周辺に自生していた八幡竹。

このように、「竹」は神聖な存在として日本の文化に根づいており、時には美の対象として崇められ、もちろん竹そのものも生活の道具として活用されてきました。


第2章では、日本のみならず、世界各国の生活を支えた道具としての「竹」に迫ります。

第2章 竹とくらし

第2章では、世界各国の竹製道具が約80点展示されています。


竹が自生するのは、温暖で湿潤な気候を持つ地域だそうです。よって並べられている道具も日本、中国、韓国、マレーシアやベトナムなどの東南アジアが中心となります。


似通った気候条件ということは、食糧事情も自然と似てきます。


穀物の選別に使うふるいや、持ち運びに使うかご、漁業に関する道具など、国や地域は違えど道具の用途や姿かたちがなんとなく似てますね。面白い。

上記は竹製の楽器。
左から、福岡(日本)、ベトナム、マレーシア、フィリピンのものだそうです。
マレーシアのやつ雅楽に使う笙(しょう)に似てる気がする・・。

この長細いの、何か分かります??

なんと抱きまくら!
夫人って名前が付いてるところ、炎上しそうでヒヤヒヤするぜ・・。



現代ではプラスチック製の道具があふれているし、もちろんそれらの利便性は疑いの余地がありません。
けれどおよそ近代に入るまで、人々は竹を活用し、くらしが竹に支えられていたということがよく理解できました。


軽く、弾力性に富んだ竹。
加工がしやすく、近年では特に環境保護の面からプラスチック製品を蛇蝎のごとく嫌う(欧州米の)風潮もありますから、逆に脚光を浴びている兆しもあります。

会場に訪れていた年配の方が「懐かしい〜!」と展示に見入っていたのが印象的でした。

第3章 竹の美とわざ

(上記画像はパンフレットからお借りしています)

最後の第3章では、美しい竹の美術作品を堪能することができます。


上記の写真は竹工芸家として初めて人間国宝に選出された生野祥雲斎の作品「陽炎」。

実物も美しいですが、QRコードを読み取ると竹工芸の3D画像を見ることができます。拡大もできるので、細かいところや見えにくい裏面はこちらで確認する方がいいかもしれません。


木瓜形菱花紋透盛籃
https://www.opam-tob.jp/bamboo/R3_T03

櫛目編華籃 悠然
https://www.opam-tob.jp/bamboo/R3_T05

陽炎
https://www.opam-tob.jp/bamboo/R3_T07


会場でも思いましたが、マジでビビるくらい美しい作品たちでした。ヒトが技術、技工を極めるとこんなにも美しいものができるのか・・と呆然とします。

おおいた美の宝というサイトでは他の竹工芸品の3D画像も見ることができるので、お時間がありましたらぜひご覧になってみてください。


竹工芸はもともと「用の美」という、生活の道具の中に美しさを見出すことで新たな価値を付与する、といったスタンスの作品が多かったそうです。
生野祥雲斎の作品も、花かごや盛かごなど、一応道具としての一面も考えられて制作されたものが多いです。


しかし現代では単に美しいオブジェとしての竹工芸も生み出されており、会場では重力をシカトしたような作品や、GANTZに出てくる球体のような作品なども見ることができて楽しかったです。

中には独自の竹の編み方で生み出された作品もあり、「竹」という素材は想像以上にアーティストの個性が出るのだと感じました。


これからアートの場面では竹作品も増えてきそうですね。私も注目したいと思います。

竹の未来

竹が主役のものがたりも、いよいよ終幕です。

最後のコーナーに設けられていたのは、なんと実験道具。

古くから活用されていた竹や竹製品も、近代ではプラスチックに代表される製品に代わったことで、放置される竹林が増えています。


竹の成長スピードは速く、また土だろうが床下だろうが突き破るほどの力も持っています。その結果「竹害」が広がっているのだそうです。


大分は日本一の「マダケ」の生産地ですから、「竹害」は結構大きな問題です。

大分大学では竹の研究に取り組んでおり、竹から繊維や成分を取り出し、新たな製品を生み出しているのだとか。

工程を見ると随分と費用と手間がかかっているようなので、ちょっと実用化は怪しいな、、と素人目には見えるのですが、このような研究の積み重ねがとても重要なのは理解ができます。


エジソンの白熱電球も、竹製のフィラメントなければ実用化や商業的成功も無かったでしょう。
竹製のフィラメントはその後20年位で他の素材が発見されて使われなくなるのですが、それでも技術の進歩というのは様々な実験、実証の積み重ねに他ならないのです。
40時間しか点灯できなかった電球から、いきなり40000時間点灯できるLED電球へとジャンプアップはできないのです。


今回の展覧会では知らなかった竹の歴史、魅力、そしてこれからの可能性についても随分と発見が多く勉強になりました。


特にSDGsの本場(?)欧州米では竹は育成しませんから、アジア主導で竹製品の美しさや持続可能性について売り込みをかけられると素敵ですね。

竹ものがたり 概要

展覧会「竹ものがたり」は大分県立歴史博物館にて11月26日(日)まで開催中です。


竹の新たな一面に触れることのできる素敵な展覧会、ぜひ訪れてみてください。

開催期間2023年10月20日(金)〜11月26日(日)
開館時間午前9時〜17時
(入館は閉館の30分前まで)
休館日月曜日
観覧料一般 510円
高大生310円
中学生以下・土曜日の高校生、障害者手帳掲示者とその介護者(1名)は無料
HP大分県立歴史博物館https://www.pref.oita.jp/site/rekishihakubutsukan/
展覧会に関するページhttps://www.pref.oita.jp/site/rekishihakubutsukan/tokutentakestory.html
Instagramhttps://www.instagram.com/rekihaku_oita/
駐車場有(150台、無料)



会期は終了していますが、こちらの竹の展覧会も素晴らしかったです!
関連記事:【大分県立美術館】竹会【感想】

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