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【中津市歴史博物館】結成150周年記念 文明開化と明六社〜津山・津和野・中津の思想家たち〜【感想】

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1853年、浦賀沖に現れた4隻の蒸気船。


当時の政府に大きな衝撃を与え、翌年徳川幕府はアメリカと「日米和親条約」を結び、210年間続いた鎖国政策を改め開国しました。


開国に伴って日本に流れ込んでくる西洋の文化、制度、習慣。
政府の方でも、「西洋」を学ばせるため優秀な学者たちを欧米へと派遣しました。


今回の展覧会は、江戸末期から明治にかけて活躍した思想家や学者たちの足跡を巡るもの。
今からちょうど150年前、彼らが立ち上げた学術結社「明六社」は活動期間こそ短いものの、そんな明治時代を色濃く反映した存在です。


副タイトルにもなっている津山・津和野・中津の3つの市は、優れた蘭学者、洋学者を排出した歴史と、それぞれ「津」という文字がつくことから「三津同盟」を締結。
本展はその同盟を記念したものでもあり、巡回展でもあります。

津山(岡山県)→津和野(島根県)→そして今回の中津(大分)で終幕となります。



episode1「黒船来航と、海を渡ったサムライ」

こちらは黒船来航絵巻。津山藩士・箕作秋坪(みつくりしゅうへい)らが黒船を偵察中に描いた絵です。

絵巻には藩士が遭遇した黒船乗組員・ゴールズボロー大尉の名刺と、もらった紙巻きタバコなどが挟み込まれています。
思いっきり偵察バレとるがな。仲良ぅなっとるがな。

写実的表現が不得意な日本人にしては頑張ってる乗組員たちのイラスト。
足めっちゃ長い。体格の良さが伝わりますね。

上記の写真は「咸臨丸(かんりんまる)」という蒸気軍艦の模型です。


江戸幕府がオランダ政府から購入したもので、福澤諭吉はこの船に遣米使節としてアメリカまで、津和野藩出身の西周(にしあまね)、津山藩出身の津田真道(つだまみち)はオランダ留学の際江戸から長崎まで乗船したそうです。


現代のような飛行機も新幹線もありませんから、目的地まで一体どれだけの日数がかかったのか想像に及びません。優秀なだけではなく、よほどの情熱がなければやはり異国の地に留学などできないでしょう。


見聞を広めた彼らは、やがて帰国後文明開化を引っ張っていく存在になります。

episode2「海外の学びを活かす」

海外への視察、留学を終えて帰国したサムライたち。しかし待ったなしで時代は移り変わって行きます。

1868年、260年以上も続いた江戸時代は終わりを迎え、明治の世が始まりました。

新たな政府の組織で中心的役割を担う者や、思想や法律に関する本を書いたり、新時代を支える人材を育成するための機関を設立する人も居ました。

上記は西周がオランダ留学中に受けた国際法の講義を翻訳・刊行した「万国公法」。

分厚い英和辞書や、人材育成についてのカリキュラムを組んだ本も。

なぜ西洋の思想、文化、法律などを国全体で学ばなければならないかというと、当時の列強諸国にこれ以上組み伏せられない為です。


開国時に締結した「日米和親条約」も不平等条約でしたし、そもそもキリスト教徒ではないということだけで「野蛮人」と見なされた時代です。
不平等条約を撤廃させ、国としての独立を保ち、西欧列強に人として対等に扱ってもらうためには、彼らの文化・考え方を取り入れるより他なかったのです。


明治の初め頃に読まれたという有名な都々逸の一節「ざんぎり頭をたたいてみれば文明開化の音がする」。
西洋的な文化が入ってきて、制度や習慣が大きく変化していく様を読んだ歌です。

ちょんまげを切り落とし、刀を置き、洋装を纏い、、、アイデンティティ・クライシスを起こすような変化にも必死に食らいついていかなければならなかったサムライたちの心境を思うと、ちょっと切ない気持ちになります。

episode3「洋学者ヨ結集セヨ〜明六社の船出」

明六社。

明治6年(1873年)に森有礼によって結成された日本初の学術結社で、学者間の交流を目的としていました。
明け六つ(午前6時)という日の出の時刻にも意味がかけられており、まさに日本の夜明けを象徴するような組織だといえるでしょう。

こちらが明六社の主要メンバー。

2024年度から新5000円札の顔になる津田梅子の父・津田仙や、西周、津田真道、福澤諭吉などの錚々たる顔ぶれです。ほぼ留学経験者。


毎月精養軒というレストランに集まって洋食を食べながら会合を開き、会誌として発行した明六雑誌は社会に大きな影響を与えました。
おそらく喧々諤々の議論・討論を行っていたのでしょうが、なんか同人誌を発行するサークル活動みたいで楽しそう。


しかしそんな明六社の活動期間はわずか2年。


「讒謗律(さんぼうりつ)」という言論統制の法律(現在でいうところの名誉毀損罪のもととなる法律)、新聞紙条例(政府への批判を禁止する法律)が制定されたことにより解散の道をたどります。

明六雑誌の休刊に対して動揺している様が読み取れる津田真道宛の手紙も展示されていました。

当時の知識人、特に留学経験者にとって言論統制を行う法律が発布されたことは衝撃的だったでしょう。


不平等条約を解消するためとはいえ、挙国一致、富国強兵を目指す明治政府にとって自由民権運動の高まりは危険視すべきもの。
しかし「批判される」という視点を失った日本政府はご承知の通りこのあとひたすら戦争への道を突き進んでいきます。


episode4「現代に生きる“明六社”」

わずか2年あまりの活動期間で解散してしまった明六社ですが、その系譜は東京学士会院を経て、現在の日本学士院へと引き継がれています。


また現代ではおなじみの言葉も、明六社の人々が訳したものが多く使われています。

日本には無かった概念を、日本語に訳して浸透させるのはなかなか難しいですよね。


現代では特にIT関係や、金融関係などのビジネス語はもうそのまま海外の言葉で運用されますから、先人の苦労が忍ばれます。

人間万事塞翁が馬

日本の夜明けを目指し、江戸の幕末から明治維新を駆け抜けた明六社のメンバーたち。


活動期間は短いながらも、現代にも息づく彼らの功績。
その一端を知ることが出来た、興味深い展覧会でした。


ちなみに写真は大分県出身の彫刻家・朝倉文夫による福澤諭吉の胸像。福澤の死後、写真を元に制作されたものです。
しかし当の諭吉本人は、絵画や彫刻などで顕彰され偶像化されることを嫌っていたそうです。・・・いやめっちゃ一万円札の顔になって崇め奉られとるがな!!

うーん、来年度からついに新しいお札に代わりますが本人的にはホッと一息ついているのかもしれませんね。


結成150周年記念 文明開化と明六社〜津山・津和野・中津の思想家たち〜展は中津市歴史博物館にて12月17日まで開催中です。ぜひお見逃しなく。

開催期間2023年 11/11(土)〜12/17(日)
開館時間9:00〜17:00<入館は16:30まで>
休館日月曜日
観覧料一般        300円
団体(20人以上) 100円
中学生以下・身体障害者手帳・療育手帳・精神障害者保健福祉手帳掲示者とその介護者 無料
駐車場有(無料、22台)
HPhttp://nakahaku.jp/

関連記事:【中津市】福澤諭吉旧居・福沢記念館【感想】

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