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【大分県立美術館】WHO ARE WE 観察と発見の生物学展を通してみる学術分野の未来【感想】

投稿日:2021年7月30日 更新日:

WHO ARE WE(私たちは誰なのか)。


2021年7月22日より大分県立美術館で開催中の、観察と発見の生物学展。


眺めているだけでもなんとなく楽しい美術作品の展覧会と違い、正統な学術系の展示はむずかしい、あるいは退屈というイメージがあります。


つい先日、観覧料300円という安さにつられてお伺いしてきました。


するとそこは、想像以上の楽しさ、興味深さ、魅力あふれる空間だったのです。

WHO ARE WE 観察と発見の生物学 展 概要

「WHO ARE WE 観察と発見の生物学」展は、茨城県つくば市にある国立科学博物館 自然史標本棟に納められている非公開コレクションの特別巡回展です。


世界中から集められた秘蔵の標本は、約480万点。


今回はその貴重なコレクションの中から、主に哺乳類を中心として選びぬかれた剥製や資料が展示されています。


公開されたのはOPAM(大分県立美術館)が全国初となります。


巡回展なので今後他県でもご覧になれると思いますが、残念ながら詳しいスケジュール情報などはまだ未確定のようです。

「発見の体験」ができる舞台装置

(上記の写真はWHO ARE WE プレスリリース情報よりお借りしています)

この、WHO ARE WE 展、仕掛けが満載でした。


まさに「発見の体験」ができる展示方法なのです。

・手袋の着用が義務

本展示会では、入場する前に、手袋の着用に関しての説明があります。

展示室内の引き出しを開ける時には、手袋の着用をしなければなりません。


作品保護、また新型コロナウィルス感染症対策のためでもあると思いますが、いちばん重要な働きは「非日常感」の演出なのではないかと考えます。


普段着用する機会のないであろう白い手袋。


その白さは、研究者や、美術作品を扱う学芸員を彷彿とさせる一種の舞台装置です。


退屈しそうという先入観がある学術展示において、キッズはもちろん、大人たちもちょっとテンションが上がるのではないでしょうか。

ちなみに手袋は返却不要です。
(というより感染症対策のため、回収はできない、と受付の方がおっしゃっていました)

・引き出しを「開ける」というワンアクション

上記の写真は会場内展示のいち部分をアップしたものです。


お気づきの通り、ヘンテコなでっぱりがあります。


これを引っ張ると・・・

なが〜い引き出しになっています。


他にも、横に長かったり、長くなかったり、大小様々な引き出しは会場内に計46個もあります。


でっぱりに書かれてあるキャッチーな言葉が与えてくれるワクワク感。


開けてみるまで何が出てくるのかわからないドキドキ感。


そしてそれを「自分の意志と手で引っ張り出す」というワンアクション。


展示会は、とかく観ること(あるいは眺めること)に集中しがちですが、ちょっとした体の動きを加える仕掛けによって、より「体験」を感じさせてくれます。

・展示会場に満たされる木の香り

会場展示物はこのように、木製の箱を中心に組み立てられています。


そして会場の大きさ自体も広くなく(ちょっと大きなコンビニ程度の広さです)、そして木製の引き出しを開け締めする仕掛けなので自然と会場内は木の香りで満ちています。


一般的にはしゃちほこばった作りが多い展示会場。


木の香りで自然とリラックスした状態で展示物と向き合える仕掛けになっていると感じました。


・・・とは言え、私が感じた木の香りは大分県限定、それも数週間限定かもしれません。


巡回展なので、全国に運搬している間に香りはどうしても薄れてしまうでしょう。

・美術的に見ても楽しめる剥製や展示物

そんなに大きくない会場内には、たくさんの剥製や、展示物が置かれています。


実は剥製自体初めて見たのですが、動物の毛並みや、筋肉の生々しさ、目の輝き、生命のみずみずしさまで伝わってくるような迫力でした。


お金持ちの人が剥製を作りたがる気持ちが、ちょっとわかった気がします。


木製の箱も、ただ単純な作りや形ではなく、美しくデザインされた建築物のように配置されています。


どんなに資料の内容が素晴らしく、学術的価値の高い物であったとしても、単なるパネルの資料展示や、解説だけでは10分と経たないうちに飽きてしまうでしょう。


自分でも気が付かないうちに、熱中している。


なぜこんなに生物学の展示会を楽しめたのかを振り返ってみると、ひとつひとつの仕掛けにまんまと乗せられていたのだと気が付きました。


この舞台装置を企画・編集したのはよくある〇〇製作委員会などではなく、専門性の高いデザイナーの方でした。

伝える力の重要さ

上記の写真は、ビーバーの巣穴の断面解説図です。


まるで家の建築資料のように、「ビーバー邸」「オーナー アメリカビーバー」「スケールサイズ=1/10」などの表示がされているのがお分かりいただけるでしょうか。


生物学から見たビーバーの巣穴の作り方、材料をパネルで解説展示するのは単純で分かりやすいような気もします。


実際にビーバーたちが巣穴を作っている映像を、会場内で流す手法なども考えられるでしょう。


けれどビーバーにとって巣穴は間違いなく「自分の城」。


そんな自分の城の作り方を、私たち人間にもわかりやすい、建築設計資料のように伝える解説図はより親近感が湧き、伝わりやすいのではないでしょうか。


・・いえ、そんな小難しいことが伝わらなくても、ましてや覚えて帰ることなんてなくっても良いのです。


「なんだか楽しかった」や「面白い」という感情が湧き上がりさえすれば。


特に、「子どもたち」にとってそれは重要なポイントでしょう。


特に解説ばかりになりがちな展示会では、本展覧会のような「魅せる手法」や「伝え方」が大事なのだと気が付きました。


このWHO ARE WE 展では、日本デザインセンター 三澤デザイン研究室 という専門の方が企画編集・デザインを担当されています。
(スタイリッシュすぎるHPはこちらから→https://misawa.ndc.co.jp/
インスタグラムはこちらから→https://www.instagram.com/misawadesigninstitute/


とかく美術展や作品展は、〇〇製作委員会というよく分からない組織が企画や会場内の展示を担当していることが多いと感じます。


確かに展示物や作品内容に詳しい専門チームを立ち上げて、展示の順番や目玉作品、伝えたいメッセージなどを作り上げるのもいいと思います。


しかし同時に、もし魅せ方や伝え方が不十分だったとしても集客性のある、著名な画家の作品展や、イベント性のある展覧会がある時だけしか訪れない人たちを結果増やしているだけなのではないかとも思うのです。


展示物の時代背景まできちんと理解している人が、同時に展示物の魅力を伝えるための効果的な方法を知っているとは限りません。


展示の順番に意味やメッセージ性を持たせても、作品の解説資料の質を高くしても、観る側が興味を持たなければ、あるいは退屈だと感じればスルーされて終わりです。


その結果芸術や学術は「よく分からない」モノで、「敷居の高い」モノになります。


本来求められるであろう展示会の目的。


興味のきっかけや、学術分野への理解、観る人に喜びや幸福を与えるという公益性を果たすためには、デザインを専門とする伝え方のプロの力を借りるのも重要なのだと感じました。


また、本展覧会は全国に巡回展示されることを想定して、展示キットとしてデザインされています。


展示キットであれば、美術館や博物館だけでなく、スペースの限られた商業施設などでの展示も可能です。


普段美術館や博物館に行く機会が無いという人にも、学術分野への興味を持つきっかけを与えることのできる、素晴らしい設計だと思います。

学術分野に対する不要不急論

新型コロナウィルスの感染が拡大する度に議題に上がるのが、「不要不急論」です。


特に学術や芸術に関するその指摘は、アフターコロナの世界でも残念ながら変わらないのではないかと考えています。


しかし、国立科学博物館が日々研究の手を止めることも、休むこともなく種の保存を続けているのには3つの目的があるそうです。

無目的
標本の使いみちの可能性は無限大。
集めればいつかなにかの役に立つはず。

無制限
たくさんの数を集めて比較しなければ、見えてこない真実がある。

無計画
動物の死は突然。
一瞬で消えてしまう命の痕跡を、どんな予定よりも優先して保存する。

時代が進み、科学技術が進歩しなければ、分からないことが多かったはずです。


DNAという概念すら、100年ちょっと前に生まれたばかりです。


生物模倣技術(サメ肌をマネて空気抵抗を減らす、など)も、ごく最近になって生まれた技術でしょう。


その新しい技術や概念が生まれるためには、多くの種での比較・検討が必要です。


DNA解析が進めば、例えば感染症発祥のメカニズム、ひいては対策も打ちやすくなるのではないでしょうか。


その「いつかくる日」のために、ただただ研究を続けている。


その研究は、人類にとって不要でも不急でもないはずです。


誰かが離婚しただとか、浮気しただとかのニュースを毎日垂れ流す報道よりよほど意義深く、誰かが必ずやり続けなければならないものです。


しかし、不要不急だと叩かれてしまう。


展覧会などが、人流抑制のため中止にせざるを得ないことには賛成です。


それでも、学術分野の存在は不要不急ではないのです。


その意義が伝わらないのは、伝え方が下手だから。


「よく分からない」モノや、「敷居の高い」モノになってしまっているから。


その点、今回の展覧会は子どもでも大人でも楽しむことができ、そしてさり気なく生物学、ひいては学術分野への興味と理解を促すきっかけになる、非常に優れた展覧会であったと思います。


今後は、このような伝え方にも一目おいた優れた展覧会が増えていって欲しいと切に願います。

WHO ARE WE 観察と発見の生物学 展 まとめ


「WHO ARE WE 観察と発見の生物学」展は現在大分県立美術館(OPAM)で7月22日〜9月12日まで開催中です。


その後の本展覧会の予定は未定ですが、もしどこかお近くの展示施設でこのWHO ARE WE 展があればぜひ訪れてみてください。


超絶楽しい展覧会がアナタを待っています。

開催期間2021/7/22(祝)〜9/12(日)
開館時間10:00〜19:00(金・土曜日は20:00まで)
入場は閉館30分まで
休展日
観覧料一般300円 小・中・高校生200円
支払方法現金または各種クレジットカード可
撮影可(動画も写真もOK)
ホームページhttps://www.opam.jp/
駐車場有(最初の30分以降は有料。30分を越えて1時間以内は200円。
1時間を越えて30分ごと100円)

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