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【大分県立美術館】佐藤雅晴 尾行 存在の不在/不在の存在展 【感想】

投稿日:2021年6月3日 更新日:

この記事は大分県立美術館で2021年5月15日~6月27日まで開催されていた「佐藤雅晴 尾行 存在の不在/不在の存在展」の感想記事です。


同時期に大分で開催されているMINIATURE LIFE展とは全くベクトルの違う美術展に行ってきました。


大分県立美術館(OPAM)で開催中の、佐藤雅晴 尾行 存在の不在/不在の存在 展です。


佐藤雅晴さんは、大分県出身の芸術家。


国内外で精力的に個展を開催したり、高い評価を受け活動されている最中、残念ながら2019年に45歳という若さで病により亡くなられました。


この展覧会は、佐藤雅晴さんというアーティストの軌跡をまさに尾行(トレース)したもの。


「ロトスコープ」技法により現実の世界から切り取られ、表現された作品たち。


MINIATURE LIFE展のように分かりやすい芸術・美術展ではありませんが、彼の不思議で魅力ある世界観にとっぷりと浸かることができます。

「ロトスコープ」技法とは


アメリカのアニメーション会社を立ち上げた、マックス・フライシャーという方によって生み出されたアニメーション手法のひとつです。


モデルや、現実の日常風景をビデオで撮影、パソコンで取り込んでペンツールなどでトレースする技法だそうです。

上記の作品ですが、左の女性がアニメーション、警官が実写だというのがおわかりいただけるかと思います。


このロトスコープ技法で表現された映像作品や、氏がドイツ留学中時代に手掛けた初期の作品、フォトデジタルペインティングの作品などもあり、見どころのある作品展になっています。

佐藤雅晴 尾行 存在の不在/不在の存在展 感想

とても一言では言い表せないような作品展でした。



誤解を恐れずに言えば誰が行っても楽しめる作品展ではありません。


しかし、愉しめる人はとことん愉しめる作品展であると思います。



ロトスコープ技法により、切り取られた現実とあらわれた虚実の世界。


見てはいけないものを見てしまった時のようなときめき。


自分だけの宝物を手に入れた時のような仄暗い喜び。


ずっと作品を見つめていたいのだけど、そこはかとない背徳感も感じてしまう。

最初のスペースに展示されているのは、東京尾行という作品です。



ありふれた東京の、スクランブル交差点の様子や、ビルの解体工事の風景。


ハンバーガーを頬張る男性、ベランダで井戸端会議に興じる女性たち。



誰もが認識して、想像できるありふれた現実が、この作品展では強烈な違和感を持って、観る人の心を揺さぶります。



写真右隅にあるのは、ドビュッシーの月の光を奏でる自動演奏ピアノ。



耳に入ってくる音色と目が追いかけてしまう映像。


理解しようとすればするほど、足元が不安定になってしまうような危険性。


そんな、不思議で強烈なパワーをもった作品展は意外にも多くありません。


日常から切り離されて、どっぷりと芸術に触れたい、という方には非常におすすめの作品展です。

作品展詳細


佐藤雅晴 尾行 存在の不在/不在の存在展は大分県立美術館にて、5/15(土)〜6/27(日)まで開催中です。

開催期間5/15(土)〜6/27(日)(休展日なし)
開催時間10:00〜19:00
金・土は20:00まで(入場は閉館の30分前まで)
観覧料一般800円
大学・高校生500円
中学生以下無料
駐車場あり


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