昨今、家庭料理は何かと話題になりがちです。
パッと思いつくのは、「ポテサラぐらい家で作ったらどうだ?」事件でしょうか?「冷凍餃子は手抜き」事件もありましたね。
家庭料理の役割は、空腹を満たす、家族の健康維持、一家団欒のため、など他にも、いろいろな役割があるかと思います。
同じ人に食事を毎日作る大変さ。
決められた予算の中で、しかも限られた材料を使って作ることの大変さ。
実は宮中でも、それは同じなのだそうです。
大根1本、切り方を変え、調理法を変え、創意工夫を凝らして作る。
誰もが一度は宮中での食事はどんなものなんだろう、と思い浮かべたことはありませんか?
天皇陛下や皇后様は毎日、どんなに豪華で、どんなに贅沢なお食事をなさっているのだろう?と。
全く縁の無い世界。うかがい知る機会の無い問い。
私はたまーにテレビなどで流れる宮中晩餐会の映像を、少々興奮した様子で眺めている、そんな子供でした。
そんな問いを、答え合わせをしてくれたのがこちらの本です。
昭和天皇のごはん 概略
本書を執筆された方は、谷部金次郎さん。
宮内庁大膳課で和食担当として、昭和天皇に26年の間奉職された方です。
本書によると、昭和天皇はハンバーグや、カレー、ラーメンなどの庶民的な料理も召し上がられていたのだとか。
さすがに、宮中晩餐会や儀式のときはこの限りではありませんが、毎日召し上がる食事なので、「飽きのこない料理」=「家庭料理」をお作りしていたとのことです。
しかも、食器もお箸も家庭で見られるような物をお使いだったそうです。
特にお箸は、どんなに洗っても汚れが落ちなくなってから次のお箸に交換するという徹底した質素倹約ぶり。
意外に、そしてとっても庶民的なんですね。
昭和天皇のごはんのココが好き
「食べる側にも責任がある」
本書の中で、谷部さんはおっしゃっています。
食べる側の方々に是非お願いいたします。
昭和天皇のごはん 第二章 宮中の食卓 より引用
作る人の気持ちをもう少し理解してあげて下さい。
中略
毎日同じ方のために食事を作るということが、簡単なようで実は一番難しいのです。
それだけに「おいしい」の一言がとても励みになるのです。
谷部さんも、両陛下から直接のお言葉はもちろんなかったそうですが、それでも女官さんを通して「今日の料理は大変美味しかった」などのご感想を頂いていたそうです。
あの昭和天皇ですら常に作り手の事を考えながらお食事を召し上がっていらした。
皆さんはちゃんと食べる側の責任を果たされていますか?
ダイドコロ経験
本書で最も私が感銘を受けた部分をご紹介します。
家庭で男性が料理を作らないのはなぜなのでしょうか?
昭和天皇のごはん 第七章 台所の大切さ より引用
ただ単に料理は女性が作るものだという固定観念を持っているだけなのではないでしょうか。
中略
ひと昔前ならそれもありだったのかもしれません。
しかし今は、働く女性もたくさんいます。共働きの場合は家事の分担をする方が自然でしょう。
中略
とくに年配の方々にこそ、この考え方を浸透させていけたらいいのにと思っております。
著者の谷部金次郎さんは1946年生まれの方です。
どちらかと言えば、ポテサラぐらい家で作れ、とのご意見をお持ちの方に近い年齢のハズです。
しかも驚きなのが、この本の出版は2011年。
10年以上も前に出版された、そして男性からの提言です。
世間の家庭料理に対する価値観が10年経っても変化がないのは、ちょっとさみしい気がします。
まとめ
本書の魅力は、たくさんあります。
昭和天皇がお好きだったという鰻の料理や、四季折々のおすすめ料理。
はたまた日本の食糧事情や食文化、食育のことまで多岐に渡って書かれています。
読んでいて勉強になるのはもちろん、目からウロコの考え方があって、とても興味深く読み終えました。
特に食べる側の責任については、身につまされる内容です。
コロナ禍で、家で過ごす時間が増えている昨今。
「家庭料理」について考える良い機会だとも言えます。
食べる専門だった皆さんはとりあえず、「おいしい」「ありがとう」と感謝を伝えることから「家庭料理」に参加してみませんか。
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