読書感想文

【読書感想文】紅茶と薔薇の日々

投稿日:2020年8月31日 更新日:

森鴎外。
明治・大正時代の小説家であり、陸軍軍医。


代表作の「舞姫」は誰しもがその作品名を聞いたことがあるはず。


国語の教科書やテストなどで、よくお目にかかるお人です。


この「紅茶と薔薇の日々」は、そんな森鴎外の娘、森茉莉(モリマリ)が書いた、食に関する随筆をまとめたものです。


エッセイや原稿、とにかく食事に関するものが一冊の単行本にまとめられています。


子供の頃より自他共に認める食いしん坊。


美味しいものでごはんを食べないと小説がうまくいかない、とおっしゃる茉莉お嬢様。



タイトルの美しさに惹かれて、そしてなんだかすごく親近感が湧いて、思わず手にとった次第であります。

紅茶と薔薇の日々 概略

森鴎外の娘、森茉莉。


当時陸軍軍医として国家に勤め、作家もこなしていた父・森鴎外。


本人曰く、そんな父親に溺愛されて育ったとあります。


当然由緒正しきお嬢様育ち。

朝起きると(カオアラウオユ)と母親か本人がのたまうと、女中が持ってくる。

<中略>

その上私は十五になっても父親の膝に、冗談にしろ乗ったりしていて、手に負えない赤ちゃんお嬢さんである。

第二章 料理自慢 「蛇と卵」ーーー私の結婚前夜より

親近感が湧いて本書を手に取りましたが、中盤に差し掛かる前にあっけなく共感度ゼロになりました。


だってわたくし、家にお手伝いさんなんていらっしゃいませんでしたもの。


ですが、不思議と森茉莉の文章は嫌味がなく、それどころか返って無垢な印象を受けるのです。


子供時分の優雅な生活。


大正時代の、異国の文化が少し馴染み始めた時代の、なんといもいえない匂いのする食事の描写。


父である森鴎外の好物。

一家での食事。

レストランでの外食までもが事細かに綴られています。


お嬢様育ちの食いしん坊。


しかし、食べるだけではなく、時にお嬢様は自ら台所に立ち、自慢の腕を振るいます。


舌で記憶したという彼女のレシピは、庶民育ちには真似できない物かと思えば、意外にも、随分と身近なレシピが多いのです。


パセリのたっぷり入ったオムレツや、トマトや玉ねぎのバタア焼き。


鯖が入った、サラドゥ・リュッス(ポテトサラダ)など、言葉の響きからして優雅です。


しかも材料は冷蔵庫にあるもので事足ります。


なんて素敵なお嬢様なんでしょうか。

紅茶と薔薇の日々のココが好き

森茉莉の目を通して伝えられる、鴎外の食生活や衛生面での考え。


大変な食いしん坊であると自負する森茉莉の、食に対する描写の細やかな筆致。


高価な食材ばかり使われるのでは?という懸念を払拭し、(もちろん、森茉莉自身が子供の頃は高価な食材だったでしょうが)家庭にある材料で、しかし、独特のエッセンスが効いたレシピは思わず真似をしたくなります。


ひとつ本書にあったレシピを再現してみました。

レモンを三四滴と蜂蜜を溶かしたのを二三滴入れて飲んでいる。
(そうすると味がずっと品がよく、柔らかくなる)

第四章 日常茶飯 コカ・コーラ中毒 より

たったこれだけで、何が変わるのかしら?と思われるかもしれませんが、後味がまったく違うものになります。


比重が重いためか、コーラを飲み終わったあとの風味に、ほんの少しはちみつが残るのです。


それがたまらなく、まさに「品がよい」のです。


お友達の家に遊びに行ってこれが出てきたらたまげる味です。


気になった方はお試しあれ。



本書「紅茶と薔薇の日々」は、森茉莉の、しかも食に関する随筆集ですが、父鴎外に関する記述が多いです。


彼女は相当にファザーコンプレックスであったのだと伺えます。


彼女は折に触れ、父鴎外の言葉、思い出を綴っています。


森鴎外という、私にとっては文字の上でしかお会いしたことがない存在です。


しかし、実存するレシピやエピソードとともに、食べ物というフィルターをかけて語られると、ぐっと身近な印象になります。


これほど素敵なことはありません。


また、独特の言葉遣いで描かれる食の世界はどことなく背徳感があり、官能的です。


いくつか再現してみたいレシピもあり、読み終えてなお、ワクワクしています。

おまけ 妄想料理人

私は偉人たちがどんな食事を好んでいたのかを本で読んだり、生きていた時代にどんな食べ物やメニューがあったのかを調べるのが好きです。


そしていつもこんなカフェがあったらと妄想するのです。


例えば森鴎外をコンセプトにしたカフェのメニューはきっとこんな感じ。

お飲み物
・珈琲
・チョコレイト(チョコレートを牛乳で溶いたもの)
・湯冷まし
・生ぬるい麦茶

お食事
・ロールキャベツ
・牛肉入りスープ
・ハンバーグ
・野菜の煮物など

スペシャルメニュー
・葬式まんじゅうのお茶漬け 漬物付き

鴎外はベルリンに5年、ミュンヘンに3年留学したとのことで、メニューはドイツ料理が主になります。


野菜も好んでいた、との記述より、かぼちゃ煮やふろふき大根などの和食も登場します。


ちなみに彼の衛生理念に敬意を表して、生水(お冷)、生の果物などは出ません。


みずみずしい旬を迎えた桃ですら、すべて火を通した状態で提供されます。


真夏でも、です。


鴎外カフェイチオシのメニューは葬式まんじゅうのお茶漬け。
(娘いわく、小さい時は真似てよくやったが、今ではたべられない。)


2ヶ月に一回位でコンセプトが変わっていく、そんな素敵な偉人カフェ。


どこかにないでしょうか?


素敵な本に出会うたび、妄想してしまいます。


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